筑波大学は1月30日、「プルシアンブルー類似体」の立体構造(画像1・2)が、ナトリウムイオンを高速で安定的に出し入れできることを発見し、これを正極材料とするナトリウムイオン電池が、従来の電極材料よりも高い容量・起電力・サイクル特性を持つことを見出したと発表した。

成果は、筑波大数理物質系の守友浩教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月31日付けで応用物理学会発行の「Applied Physics Express」に掲載の予定。

プルシアンブルー類似体の構造。画像1(左)は充電状態。画像2(右)は放電状態。放電状態の大きな球はアルカリ金属イオン、どちらの状態にもある小さな球はコバルトイオンまたは鉄イオンを示す

リチウムイオン電池は、コンピュータや携帯端末の電源だけでなく、電気自動車の電源や高容量の蓄電池への応用が期待されている。現在実用化されているリチウムイオン電池材料は「LiCoO2」で、1g当たり140mA時の電気料を蓄えることが可能だ。

しかしリチウムは希少元素であり、海外(チリ、中国、ロシア、アメリカ)からの輸入に頼っている。そのため、豊富で安価なナトリウムに置き換えたナトリウムイオン電池の開発が進められているところだ。

ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池よりも大きな電流を取り出すことができるため、これが実現すれば、天候に左右されやすい風力発電や太陽光発電の安定利用が可能となるのである。

研究グループはジャングルジム構造を持つプルシアンブルー類似体に着目しており、その格子空間にさまざまなイオンや分子を収容する研究を系統的に進めていた。そこで得た知見を活かす形で、今回の研究ではナトリウムイオン電池用の正極材料への応用が試みられた形だ。

材料の本来の性能を引き出すためには、プルシアンブルー類似体(活物質)と電気を取り出す金属(集電極)との電気的接触をよくする必要がある。そこで集電極上に直接活物質を「電解析出」させた薄膜を作製し、それを作製し、それを正極とした。

具体的には、プルシアンブルー類似体の「NaxCO[Fe(CN)6]0.90・2.9H2O」が活物質で、透明電極であるインジウム錫酸化物を集電極である。正極の膜厚は、1.1μm、負極はナトリウム金属だ。

電解液は「NaClO4」の炭酸プロピレン溶液(1M)、制限電圧は2.0~4.0V、充電レートは0.6C(0.07mA/cm2)で固定し、ビーカー型電池セルで試験が行われた。

画像3。プルシアンブルー類似体の組成式

画像4は、従来のナトリウム電極材料の「Na0.7CoO2」と、プルシアンブルー類似体正極材料「Na1.6Co[Fe(CN)6]0.90」の放電曲線を示したものだ。従来の電極材料では容量が80mAh/gと小さく、起電力も持続しないのに対し、プルシアンブルー類似体では平均3.6Vという高い起電力と135mAh/gという高い容量が観測された。

この容量は、ナトリウムがすべて取り出せると仮定した場合の理論容量125mAh/gに近い値だ。またサイクル特性が測定されたところ、100サイクルで初期値の71%の値が得られている。

画像4。従来の電極材料(点線)とプルシアンブルー類似体電極(実践)の放電曲線(放電レート:0.6C)。一定の電流を取り出しながら、電池の起電力を測定

このプルシアンブルー類似体は、高エネルギー加速研究機構の施設である「フォトンファクトリー」の「8Aビームライン」で実施したX線回折による構造解析から、面心立方格子であることが確認された。

また画像5・6に示されているように、正極薄膜の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、放充電を100サイクル繰り返した後でも粒構造の変化は観測されなかった。

プルシアンブルー類似体のSEM画像。画像5(左)は放充電前、画像6(右)は放充電100サイクル後

これらの結果は、プルシアンブルー類似体の構造がナトリウムイオンの出入りに対して極めて安定であることを意味し、これがナトリウムイオン電池の安定性・安全性に寄与すると考えられるとしている。

今回の研究により、ナトリウムイオン電池の正極材料として、プルシアンブルー類似体が有望であることがわかり、安価で高性能なナトリウムイオン電池の実現の可能性が示唆された形だ。

今後、さらにプルシアンブルー類似体の高い電極性能を維持したペースト型電極の作製、コイン型電池の試作、ナトリウムイオン電池の実現を目指すとしている。