新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は1月30日、塗布・印刷法の1つである塗布結晶化法により、有機TFT-LCDで画素サイズ0.5mm×0.5mmという従来比9倍の高解像度を実現したと発表した。

成果は大阪大学 竹谷純一教授、大阪府立産業技術研究所 宇野真由美主任研究員、クリスタージュらによるもの。ナノテク先端部材・部材実用化研究開発プロジェクトの一環として行われた。

図1 開発された有機TFT-LCD(画素サイズ0.5mm×0.5mm)

有機半導体は、塗布法・印刷法といった簡便かつ比較的低温での作製が容易、薄型化できる、低コスト化が図れる、フレキシブルディスプレイなどのユニークな用途が期待できるといった特徴があり、応用開発研究が盛んに行われている。しかし、実際に薄型ディスプレイを高速で制御する性能(高移動度)を保ったまま、簡便かつ低コストに成膜し、さらに高解像度化のために微細なパターニングをすることは困難だった。

研究グループでは、2003年に有機半導体の結晶を用いたトランジスタを開発し、従来より格段に高い性能を実現することを見出していたため、実用化に有利な溶液塗布法によって有機半導体結晶を作製する方法を検討してきた。2011年には、同プロジェクトの成果として、広島大学 瀧宮和男教授らが開発したアルキルDNTTを用いて、100℃程度にした溶液から有機半導体結晶を析出させ、高い性能の有機TFTを開発したほか、2012年には、塗布結晶化法を利用した、2.3型30×23画素対応の有機TFT-LCDの駆動にも成功している。今回は、画素サイズ0.5mm×0.5mmを実現し、2012年に発表した開発品と比べ9倍の解像度となる2.8型128×60画素の有機TFT-LCDの開発に成功したという次第だ。

今回の開発のポイントは大きく3つ。1つ目は、高移動度の有機半導体材料で、典型的な塗布型有機トランジスタの性能0.1~1cm2/Vsを1桁上回る10cm2/Vsのキャリア移動度の有機半導体を利用した。この移動度は、非常に高い値であり、ディスプレイパネルの場合、従来のアモルファスシリコン材料を用いた場合より、1桁速い動画が表示できる。

2つ目は塗布結晶化法という新たな成膜プロセス。有機半導体を溶液で塗布すると同時に結晶化させて膜にすることができる簡便な手法で、有機半導体分子が規則正しく配列することが特徴となっている。高移動度の有機半導体が溶液から析出する際に、配列しやすい分子設計をしているという。

3つ目は新規半導体パターニング法。リソグラフィを用いた新しい半導体パターニング法で、フォトレジストと現像条件を最適化した。これにより、有機半導体にダメージを与えずに微細加工し、電極を取り付けることができる。得られた性能は、現在の液晶薄型ディスプレイに用いられるアモルファスシリコン性能を約10倍上回るという。

今回の成果は、大面積・低コストの生産が可能となるため、次世代薄型ディスプレイやアクティブ駆動型フレキシブルディスプレイとして応用できる。さらに、有機EL素子との組み合わせにより、大画面の高性能フレキシブルディスプレイの早期実現にもつながるため、高速な有機エレクトロニクス素子の実用化への道を示したとコメントしている。

図2 塗布結晶化法

今後は、開発したアクティブ駆動型パネルの高精細化と有機EL素子と組み合わせたディスプレイの開発を行う。また、大阪大学内に組織した、有機材料開発からパネル部材、装置開発、デバイス開発を行う企業とのコンソーシアム「ハイエンド有機半導体研究開発・研修センター」を主体に、高速動作の有機エレクトロニクスデバイスの実用化研究を加速し、ロールスクリーンテレビや電子ペーパーなどに利用できる薄型・高性能なフレキシブルディスプレイの開発を目指していく考え。

図3 今回の研究で開発された塗布結晶化法を用いて作製した高性能のアクティブ駆動型有機TFT-LCD。現在、使われている計測器表示パネルと同じ画素スペックを実現している