北大、クラス横断的に複合糖質糖鎖を系統的に定量解析する新手法を確立

北海道大学(北大)は1月24日、「N-結合型糖鎖」、「O-結合型糖鎖」、「スフィンゴ糖脂質」、「プロテオグリカン」、「遊離オリゴ糖」からなる5つのクラスの複合糖質糖鎖を系統的に定量解析する手法を確立し、細胞の有する主要なすべての複合糖質糖鎖の発現プロファイルをクラス横断的に俯瞰できるようになったと発表した。

成果は、北大大学院 先端生命科学研究院 複合糖質機能化学グループの篠原康郎特任教授、同・藤谷直樹特任助教、同・古川潤一特任助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月23日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

複合糖質とは、糖質を含む生体分子の総称のことで、広くは動植物の組織、細胞あるいは体液中などに存在する。複合糖質は(1)糖タンパク質、(2)糖脂質、(3)プロテオグリカンに大別することが可能だ。

そして、疾患マーカーや未分化細胞マーカーに代表されるバイオマーカーの多くが、複合糖質であることが知られている。しかし、複合糖質全般を標的にして糖鎖関連バイオマーカーを探索することは技術的な制約のために困難だった。

また、細胞表面には前述した複合糖質を大別する3種類、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどのさまざまなクラスの複合糖質群が巧妙に配置されている。

これらは細胞-細胞間のコミュニケーションやシグナル伝達において重要な役割を担っているが、これらの異なるクラスの複合糖質糖鎖の全容的な定性・定量情報を得ることも従来は困難だった。

細胞表面に存在する複合糖質糖鎖の全容的な定性・定量情報は限られており、特に異なるクラスの複合糖質糖鎖の相対的な比較に関する研究例はほとんどなかったのである。そこで研究グループはこの課題に取り組み、これまでもさまざまなクラスの複合糖質糖鎖の解析法の確立を進めてきた。

そして今回、「質量分析法」による細胞の複合糖質糖鎖の精密な解析法の構築を目指し、糖タンパク質のN-結合型糖鎖、O-結合型糖鎖、スフィンゴ糖脂質、「グリコサミノグリカン」および遊離オリゴ糖からなる5つのクラスの複合糖質糖鎖を、独自に開発してきた糖鎖の精製法・標識法と質量分析法を駆使して、系統的に定性・定量解析する手法を構築したというわけだ。

なおグリコサミノグリカンとは、プロテオグリカンの糖部分のことをいい、二糖の単位の繰り返し構造を持つ。代表的なものに、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸類、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリンなどがある。

そして同解析法を用いて、ES細胞やiPS細胞を含む18種類のヒト細胞の複合糖質糖鎖プロファイルを取得し、種々の多変量解析法を用いて細胞の機能や分類に有効な糖鎖を探索が行われた。

今回の研究では、上記5つのクラスの複合糖質糖鎖の統合的な解析法を確立し、各クラス合計で約200種類におよぶ細胞の複合糖質糖鎖の定量・定性解析を初めて実現。

18種類のヒト細胞の複合糖質糖鎖の発現プロファイルも詳細が明らかとなり、個々の細胞の複合糖質糖鎖プロファイルが高度に細胞特異的であり、細胞の記述、分類、特徴づけに有用であることを明らかにした。

また同解析法により、既知の複合糖質の未分化細胞マーカーの「SSEA-3/4/5」や「Tra-1」などを予備知識なしに一斉同定できることも実証。さらに、幹細胞に特異的に発現する新たな未分化細胞マーカー候補の同定にも成功した。

今回の研究により、従来は困難であった異なるクラス間の複合糖質糖鎖の発現量の相互比較が可能になったため、「細胞の顔」というべき細胞の複合糖質の構成が定性・定量的に明確に見えるようになり、総合的な複合糖質プロファイリングが優れた細胞の記述子となることが示された形だ。

これらの技術はiPS細胞等を再生医療に応用する上で、品質の管理やがん化の恐れのある細胞集団の検出や分離への応用など、今後、再生医療や創薬研究においてますます重要となる細胞の精密な記述や評価法として貢献することが期待されるという。

今後は、今回の研究で提案された未分化細胞マーカーの有用性の評価を進めていくのと同時に、疾患モデル細胞や臨床試料を用いて疾患関連バイオマーカーや創薬標的分子の同定に展開していきたいと考えていると、研究グループはコメントしている。



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