阪大とJST、破骨細胞が実際に骨を壊していく様子も撮影可能な顕微鏡を開発

大阪大学(阪大)と科学技術振興機構(JST)は1月17日、特殊な顕微鏡を使って生きたままで骨の内部を観察することに成功し、「破骨細胞」が実際に骨を壊していく様子を、リアルタイムで可視化し、「骨の表面にヒルのように強力に貼りついて骨を壊している破骨細胞(R型)」と、「骨の表面でアメーバのように動き回っていて骨を壊していない破骨細胞(N型)」の2種類の細胞が存在し、両者は短い時間で互いに遷移していることを明らかにしたと発表した。

また、骨粗しょう症などの状態では、破骨細胞の総数だけでなくR型の数が増えていることや、治療薬(ビスホスホネート製剤)を投与すると、破骨細胞の総数が減るだけでなくN型が増えることで骨の破壊が抑えられることも判明したほか、関節リウマチなどの骨破壊に関与するといわれていた炎症性T細胞「Th17」は、骨の表面で破骨細胞に接触し、N型をR型へと変換させることで骨の破壊を引き起こすことが、実際のライブイメージングで解明されたとした。

これらの成果は、阪大 免疫学フロンティア研究センターの石井優教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間1月17日付けで米国臨床医学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」に掲載された。

骨粗しょう症や関節リウマチ、がんの骨転移などの病気では、骨が異常に壊されていくことが問題となる。これらの病態で骨を壊している細胞が、破骨細胞と呼ばれる、骨を壊すために特殊に分化したマクロファージである。

従来の骨の研究では、骨を取り出してナイフなどで薄く切ってから、顕微鏡で観察していた。この方法でも骨が壊されている部位に多数の破骨細胞が集まっている様子は観察されていたが、それらが実際にどうやって硬い骨を壊しているのかについては明らかになっていなかった。しかも、取り出して薄く切った骨の組織の中では、破骨細胞の形は残っているが、すでに死んでいるためにその動きを見ることはできなかったのである(画像1)。

画像1。骨破壊の組織像。骨(Bone)の表面に多くの破骨細胞がへばりついている様子が観察される(白色の矢印)が、これが実際にどのように機能しているかは不明であった

また、容器内(in vitro)でマクロファージを特殊な環境下で培養すると、大型の「破骨細胞様」の細胞ができ、これまでの多くの破骨細胞の研究がこの細胞を用いて行われてきたが、この細胞が実際に生体内にいる破骨細胞と同じであるという証拠はなく、ヒトの体内で破骨細胞がどのように骨を壊しているかについては不明なままであった。

画像2は、培養容器内で出現した「破骨細胞様」の細胞。真ん中の巨大な細胞が破骨細胞様細胞であるが、周囲の小型のマクロファージに比べて異常に大きい。時には直径が1mmにも到達することもあり、これが生体内の破骨細胞と同一のものかは実際にはかなり疑わしかった。

画像2。培養容器内で出現した「破骨細胞様」の細胞

石井教授らはこれまで、2光子励起顕微鏡という特殊な装置を使って、さまざまな組織を「殺さずに生きたままで」観察する方法を次々と立ち上げてきており、骨の内部についても、可視化する系を2009年に立ち上げていたが、その解像度は十分ではなく、骨の中に細胞が出たり入ったりすることを観察することができる程度であった(画像3)。

画像3。従来の骨組織のイメージング画像。個々の細胞は緑色のスポットとして描出されている。細胞の大きな動きは解析できるが、細かい機能(骨破壊など)の観察は困難であった

今回の研究では、イメージング系をさらに改良したほか、特殊な蛍光標識技術を活用することで、骨の表面で骨を破壊・吸収する破骨細胞の動きを鮮明にとらえることに成功した。これにより、R型とN型の2種類の細胞が存在することがわかったのである。

R型とN型を区別できるようになったことは、今後の治療薬開発の上で重要になるという。以前より破骨細胞には骨を壊す働きだけではなく、骨を修復する「骨芽細胞」を活性化して、骨の修復を促す作用があることも知られていたが、治療の際に破骨細胞の数を減らし過ぎて骨の修復ができなくなり、逆に骨がもろくなってしまうことが大きな問題となっていた。

今回の観察から、破骨細胞には実際に骨を壊しているR型とそうでないN型が存在することが明らかになったため、今後の治療は破骨細胞の総数を減らすのではなく、R型を減らしてN型を増やすことを目指すべきであることが示されたこととなり、これは今後の骨破壊治療薬の臨床開発にとって重要で意義の大きな知見になるといえる。

また研究グループでは、破骨細胞が骨の表面でどのようにして骨を壊しているのかをライブイメージングで可視化するために、破骨細胞が骨を壊す時に用いる「プロトンポンプ(=強い酸を細胞外へ放出する装置)」にGFP(緑色蛍光タンパク質)で標識した蛍光リポーターマウスを作成したほか、骨のライブイメージングシステムを改良し、骨の表面を高い解像度で解析できるようにした結果、骨の表面で骨を破壊している破骨細胞の動態をとらえることに成功したというわけである。

画像4は、骨表面に引っ付いて骨を壊している破骨細胞のライブイメージングだ。左下の細胞は骨に密着して動きが少なく、今まさに骨を壊しているR型で、右上の細胞は骨表面上で移動していて、今は骨を壊していないN型である。このイメージングでは各細胞の細かい動き、形・機能の変化を追うことが可能だ。

なお、JSTの公式Webサイト上の今回のプレスリリースには動画が複数用意されており、画像4~7で示したものも動画として用意されているが、その動画を見ると、さまざまな複雑な形をした破骨細胞が骨の表面にへばりついている様子が観察される。ちなみに動画では、ヒルのように骨に密着して動きの少ないもの(画像4の左下)と、アメーバのように動き回っているもの(画像4の右上)の2種類が存在することがわかった。

画像4。骨表面に引っ付いて骨を壊している破骨細胞のライブイメージング

密着して動かない細胞は、密着面に沿ってプロトンポンプ(緑色のシグナル)が存在しているため(画像4・左下の矢印)、これは今まさに骨に向かって酸を出して骨を壊している細胞であると考えられるという(「壊す=resorbing」から"R型"と命名された)。

一方で、アメーバ運動をしている細胞はプロトンポンプが膜表面になく、細胞内に取り込まれていることから(画像4・右上のアスタリスク)、今は骨を壊していないもの(「壊していない=non-resorbing」より"N型"と名付けられた)と考えられた。

つまり、この方法で破骨細胞の数だけでなく、実際にどれが現時点で骨を壊していて、どれは働いていないか(壊していないか)が、はっきりと区別できるようになったのである。

またしばらくの間、イメージングで細胞の動きを追いかけていると、数十分くらいの間に、R型であったものがN型に変わったり、逆にN型からR型になったりするものが観察されたことから、破骨細胞は骨の表面でR型とN型を繰り返して、つまり骨を壊したり、休んだりしながら過ごしていることがわかったというわけだ。

次に、骨の病気の際に、その内部のライブイメージング画像がどのように変化するかを観察。まずは、薬剤で破骨細胞を活性化させて骨粗しょう症を人為的に誘導した時の骨の様子では(画像5)、破骨細胞の数がかなり増えていることがわかった。また、ただ単に数が増えるだけでなく、そのほとんどがR型となっていて、骨を壊していることが見て取れたという(画像5の矢頭)。

画像5。骨粗しょう症を誘導した時の骨の内部のライブイメージング。破骨細胞の絶対数が増えているだけでなく、そのほとんどが骨破壊を行っているR型となっている点が注目された

一方で、この骨粗しょう症の状態を、現在汎用されている骨粗しょう症治療薬である「ビスホスホネート製剤」で治療した状態のライブイメージングで観察してみると(画像6)、破骨細胞の絶対数が激減するが、それだけでなく、残っている細胞はN型が多いことから、骨を壊していないことがわかった(画像6のアスタリスク)。

画像6。骨粗しょう症治療薬(ビスホスホネート製剤)で治療した時の骨の内部のライブイメージング。破骨細胞の数が減っており、生き残っているものの骨破壊をしていないN型となっている

このように、骨の破壊がどうなっているかを考える上では、細胞の数だけではなく、その数の内どれだけがR型(機能型)かN型(非機能型)かを評価することが重要であることが判明した。例えば複数の人間が働く職場でも、ただ人数が多ければ全体として仕事が進むというわけではなく、その内のどれだけが「機能的」であるかが重要であるが、破骨細胞の世界も同じで、今回のようなイメージング技術によって、どれだけのものが「機能的」なのかを区別することができるようになったことは大きな進歩であると研究グループではコメントしている。

ちなみに関節リウマチでは炎症が起こった関節では、関節が腫れるだけではなく、骨が壊れていく。そして、この時に骨を壊しているのも破骨細胞である。ただし、この時に誰が破骨細胞に「骨を壊せ」という指令を出しているのかは不明であった。関節リウマチなどの自己免疫疾患の発症や増悪に重要な役割を担う、炎症性のT細胞のTh17が、骨の破壊にも関わるのではないかと予想されていたものの、具体的なメカニズムはまったく不明だったのである。そこで研究グループが、このライブイメージング系を利用して、生体内でのTh17と破骨細胞の関係を可視化したところ、Th17がN型の破骨細胞と接触することにより、R型へと変化させることで骨の破壊を誘導していることが判明した。つまり、働いていない(=骨を壊していない)破骨細胞の頭を叩いて回って、骨を壊すように指示を出していることが確認されたのである。

画像7はN型の破骨細胞にTh17が接触し、R型へと変化していく過程のライブイメージ。Th17との接触の前後で、破骨細胞の形態変化に差がある(N型→R型)が観察される。

これは、関節リウマチで骨が壊れていくメカニズムの本質をとらえたもので、関節リウマチで骨の破壊を抑える治療法を検討していく上で、重要な知見であると考えられるという。

画像7。N型の破骨細胞にTh17が接触し、R型へと変化していく過程のライブイメージ

日本全体で1200万人以上(先進国全体では6000万人以上)の患者が存在するといわれている骨粗しょう症は、もはや日本に限らず先進国高齢社会の大きな社会問題だ。この大きなマーケットを目がけてさまざまな骨疾患治療薬が開発されているが、そもそも「よい薬とは何か」という最も重要な点が意外と明瞭ではない点が懸念されている。

これまでビスホスホネート製剤をはじめとして、行き過ぎた破骨細胞の働きを抑えるために、「破骨細胞を殺す(=数を減らす)」薬剤が主に使用されてきた。今回のデータでも、ビスホスホネート製剤は確かに骨表面での破骨細胞の絶対数を大きく減らすことが確認されたが(画像6)、その一方で、破骨細胞は骨を修復する細胞である骨芽細胞に働きかけて、その分化・機能(骨再生)を促すことも知られており、破骨細胞を減らし過ぎると逆に骨がもろくなってしまうのでよくないとされている(顎骨壊死などの重篤な副作用もこれに起因するかも知れないとされている)。

そうした観点から、「よい治療薬」とは、破骨細胞の絶対数を減らすのではなく、R型を減らして、逆にN型を増やすような薬である、といえるはずだ。今回の研究成果によって、今まででは評価することができなかった、「破骨細胞の骨破壊機能」を見ることができるようになったため、これを指標とした新たな創薬開発が可能となると思われると研究グループでは説明する。

実際に、研究グループでは、既存の治療薬、および現在開発中の薬剤をこの新しいイメージング系で評価することで、「総数は減らさないが、R型を減らしてN型を増やす」といった、理想的なプロファイルに近いものをすでに見つけており、こうした新たなコンセプトによる次世代の骨疾患治療薬が、現代社会の大きな悩みである骨粗しょう症の克服に向けて大きく貢献できることを祈念してやまないとコメントしている。

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