産業技術総合研究所(産総研)、NEC、宮崎大学、科学技術振興機構(JST)の4者は1月9日、微細藻の1種であるミドリムシの「ユーグレナ」から抽出される成分を主原料とした、植物成分率約70%という高さの「微細藻バイオプラスチック」を開発したと共同で発表した。

成果は、産総研 バイオメディカル研究部門の芝上基成主任研究員、NECNEC スマートエネルギー研究所の位地正年主席研究員、宮崎大学農学部の林雅弘准教授らの共同研究グループによるもの。研究は、JSTの先端的低炭素化技術開発の一環として行われた。

地球温暖化に対する危機感が増す昨今、石油由来製品を代替する植物由来資源の活用に注目が集まっている。

全世界で年間約2.3億t(国内では約1300万t)も生産されるプラスチックは、ほとんどが石油由来の「モノマー(単量体)」を高温・高圧条件下で反応させて製造されている。その生産過程で発生する温暖化ガスの量や製造に要するエネルギーは実に膨大だ。

また、石油由来製品を代替する植物由来資源は、将来予想される数1000万tレベルの需要に対して、陸上植物の利活用だけでは供給が賄えないリスクがある。さらに、その素材は食糧と競合しない非食用であることが望ましい。

そして藻類プラスチックの生産に限らず、微生物や生体触媒を利用した生産技術では、製造エネルギーに対し節約できるエネルギーの収支を上げていくことが大きな課題となっている。

今回の研究は、安定供給が可能なセルロースなどの非食用植物資源由来の多糖類を利用して、高い温暖化ガス削減効果を実現する革新的なバイオプラスチックの開発を目的として進められた。

研究グループは今回、多糖類原料として、陸上植物だけでの供給リスクを回避し、多糖類の分子構造の多様化によるバイオプラスチックの機能性向上を目指して、ミドリムシが産生する多糖類「パラミロン」を主骨格とする微細藻バイオプラスチックの開発に取り組んだ次第だ。

一般に水中で光合成する微細藻類は、陸上植物よりも太陽エネルギー利用効率が高く、特にミドリムシは高濃度の二酸化炭素を直接利用でき、高い光利用効率の実現が可能である。

そうした理由から、今回の研究でバイオプラスチック原料の供給源として選択された。さらにミドリムシは、食品工場などの安全な廃液を用いた培養が可能であるため、結果的にプラスチック製造にかかるエネルギーの削減につながりうると期待されている。

今回の微細藻バイオプラスチックは、ミドリムシがその細胞内に大量に産生するパラミロンに、ミドリムシの細胞内でパラミロンが分解されて生成する「ワックスエステル」から合成される「長鎖脂肪酸」、あるいはカシューナッツ殻から抽出される油脂で、柔軟性を持つ長い鎖状部位と剛直な六角形状部位を併せ持つ「カルダノール」から合成される「変性カルダノール」を付加させて合成された。画像1は、各化合物の構造式と製造工程を示したものだ。

画像1。微細藻バイオプラスチックの製造工程

主原料である多糖類は「β-1,3-グルカン」であり、グルコースが数多く連なってできた天然高分子である。また、樹木などを構成するセルロース「β-1,4-グルカン」も同じくグルコースが連結した高分子だが、両者のグルコース間の結合様式が異なるため、セルロースはシート構造を取るのに対し、今回用いたβ-1,3-グルカンは1重または3重らせん構造を取り、立体構造に大きな違いがある(画像2)。

画像2。β-1,3-グルカン(パラミロン)とβ-1,4-グルカン(セルロース)の違い

作成した微細藻バイオプラスチックについて各種物性測定が実施された結果、衝撃強度などについては改善の余地があるものの、熱可塑性については、従来のバイオプラスチック(ポリ乳酸やナイロン11)や可塑剤を添加した「酢酸セルロース」、石油由来のABS樹脂と同等レベルであった。

また耐熱性については、これらのプラスチックよりも優れていることがわかった(画像3)。なお、「カルダノキシ酢酸」とワックスエステル由来の長鎖脂肪酸それぞれを導入して調製したプラスチックには大きな物性の差は見られていない。

画像3。微細藻バイオプラスチックとほかのプラスチックとの耐熱性の比較(ミリストイル基導入β-1,3-グルカンとカルダノキシ酢酸導入β-1,3-グルカンはいずれも微細藻バイオプラスチック)

今後は、微細藻バイオプラスチックの物性と構造の詳細な関係を明らかにし、さらに高い耐熱性や強度などの優れた実用特性を目指し、分子設計を推し進めていく予定と、研究グループは語っている。また、ミドリムシの効率的な培養方法やパラミロンの抽出方法など、微細藻バイオプラスチック製造に不可欠な技術についても研究を行うとしたている。