工場の硬質の外観がライトアップされ都心のビル夜景とは別の美しさを見せる

空気が澄んで夜景が美しいこの季節。いつもとはひと味違った夜景を楽しむのはいかがだろう? 今、注目されているのが臨海地域の工場夜景。日本の経済を支える工場は夜も休まず、そして美しい光の洪水を見せてくれるのだ。

無機質な工場に萌え萌えする人に人気の日本四大工場夜景

冬になると空気中のホコリが取り除かれ、景色がクリーンに見える。つまり、「冬=夜景を見るのに最適な季節」というのは夜景好きにはもはや定説。しかも、寒いからと理由づけして恋人と身体を寄せ合って見れば、これ以上、盛り上がるなんてもんじゃない! まさに冬の夜景は恋人たちのためにあるようなものだ。

しかし、恋人がいない人は夜景を楽しんじゃいけないの? 確かにロマンチックな有名夜景スポットとなれば、カップルが多くてシングルにはつらすぎる……。既にカップルだとしても、もうある程度の夜景は見つくして、ありきたりじゃつまらないって感じもするし……。という方におすすめなのが、昨今話題の工場夜景。

工場の夜景? そう言われてもピンとこないという人も多いかもしれないが、今、都市圏にある大きな工業地帯の夜景が人気を呼んでいるのだ。

そもそも、工場ブームなるものがスタートしたのは2006年~2007年頃。テレビの深夜番組で取り上げられたのがきっかけだそうだが、やがてその工場の夜景にも注目が集まるようになった。

工場に萌え萌えする“工場萌え”の人はいまだ増加中で、DVDや写真集なども数々発売されている。中でも人気なのが、北九州市、室蘭市、川崎市、四日市市の工場夜景で、2011年に開催された「全国工場夜景サミット」では、その4カ所を日本四大工場夜景とする共同宣言を行っている。

屋形船から工場を眺める。トイレもあるから安心

宇宙ステーションのような趣のある京浜工業地帯

その中から今回訪れたのは、川崎市の京浜工業地帯の夜景。京浜工業地帯は東京、横浜、川崎の臨海地域を中心に、千葉県や内陸部の埼玉県にまで南関東に広がる一大工業地帯で、第二次世界大戦後の高度成長期に急速な発展を遂げたものだ。

中でも川崎市の臨海地域には主要な工場が立ち並び、近未来の宇宙ステーションのような独特の景観を作り上げている。そんな川崎ではスタディツーリズムとして工場夜景を見るコースを数々設けられているのだが、今回はその中から、運河からの夜景を楽しめる屋形船クルーズに参加。

このコースは、浮島・小島町エリアなど、工場が密集して車が入れないところの工場も運河側からゆったり眺められるのが魅力だ。純粋に工業地帯の景観を楽しむ感じがして、これならうら寂しいシングルでも、他人に嫉妬することなく夜景を眺められそうだ。 

まずは川崎駅からに集合し、マイクロバスに乗って塩浜の船着場へ。参加者にはもちろんカップルもいるが、夜景マニアや工場マニア、ちょっと変わった観光を楽しみたい好奇心旺盛なおばさま方も集まり、車内は工場夜景への期待に胸ふくらみ既にわきあいあい。よりよい写真を撮るため、持参したカメラの細かな撮影設定にも余念がない。

市街地を抜ければ既にバスの窓からも、まるでH・R・ギーガーのアート作品のような近未来的なプラントが見えてくる。煙突からは炎が見えるが、それは“フレアスタック”と呼ばれるものだそうで、ガス処理施設、製油所やガス処理施設などから出る余剰ガスを無害化するために焼却した時に出る炎なのだとか。

そんな景色を眺めているうちに、塩浜の船着場に到着した。ここから純和風の屋形船に乗船するのだ。まだ空は明るくベイブリッジやランドマークも見える。やがて川崎の運河を進み始めた船は、ゆったりと京浜工業地帯を巡っていく。

だんだんと日が暮れて、工場に明かりがともり始めると水面もオレンジに染まり、幻想的な雰囲気を醸し出す。闇が水面まで下りると、工場の明かりを鏡のように映しだす。

右手に見える煙突からあがっているのがフレアスタック

宵闇に白い蒸気と赤い炎があがる様は幽玄の美!

工場は思いのほか間近に見え、JFEスチールや東亜石油、日清製粉などの、丸い石油タンクや煙突、クレーン、入り組んだパイプなどが重厚な造形は見ていて飽きがこない。しかも、屋形船が細い運河に入り始めると、船の左右に工場のアップが見え迫力満点だ!

乗船客も、いきなり出だしからシャッターチャンス狙いに余念がない。立ち上る白い蒸気、赤いフレアスタックも、ダークブルーの空を背景にすると、より一層その存在を際立たせる。

水面の光に反射することで、夜景は輝きを増す

工場を縁取る真っ白な明かり、タンクを浮かび上がらせるオレンジの光の競演も見事だ。どの工場が何を作っているのかなど、ガイドさんの説明を聞きつつ屋形船は進む。時折、行き交うトラックや人の気配を感じ、昼夜問わず工場が人々の生活を支えていることに気づかされる。

海ほたるなども眺めつつ、やがて屋形船は元きた乗船場に戻るために狭い運河を抜けていく。するとたくさんの工場が立ち並ぶ光のパノラマが広がって、得も言われぬほどロマンチックな雰囲気に。

塩浜運河、池上運河、田辺運河などをたっぷり巡る約2時間の乗船時間を終える頃には、一人前に“工場萌え”した気分だ。ちなみに、工場夜景を見るツアーはこの他にも、横浜から出港するコースやバスツアーなど複数ある。バスツアーは途中数カ所で下車して、工場を間近で見上げる時間も設けられているのがポイント。

その他のコースにも、マニアならずとも楽しめるプランがいっぱいだ。

屋形船から工場を煽って眺める

大型タンカーも夜景の一部

●information
旅プラスワン