順天堂大学は12月19日、京都大学との共同研究により、若年性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子の1つである「PINK1(ピンクワン)」が、同じく原因遺伝子の「Parkin(パーキン)」のスイッチを入れる仕組みがあることを見つけ、その破綻がパーキンソン病に関与する可能性が見出されたと発表した。

成果は、順天堂大大学院 医学研究科 神経学講座の福嶋佳保里研究員、同・今居讓先任准教授、同・服部信孝教授、京大大学院 薬学研究科の石濱泰教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、12月19日付けで科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

パーキンソン病は「中脳ドーパミン神経」の変性を特徴とする難治性の神経変性疾患で、40歳未満で発症するものは、若年性遺伝性パーキンソン病と呼ばれる。この若年性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子としてPINK1とParkinが知られている。Parkinは機能が低下した(不良)ミトコンドリアを除去する働きをしていると考えられるが、普段は働かない仕組みだ。

近年、若年でパーキンソン病を発症する家系の研究からPINK1遺伝子とParkin遺伝子が原因遺伝子として発見され、これらの遺伝子に傷がつき正常に機能しないと、中脳ドーパミン神経の変性が起こると考えられるようになってきた。

また、これまでの研究により、PINK1とParkinそれぞれの遺伝子から作られるタンパク質のPINK1とParkinは、どちらも不良ミトコンドリアを除去するメカニズムの「マイトファジー」に関与していることが明らかにされてきた。具体的には、不良ミトコンドリアが生じると、ミトコンドリア上にあるPINK1がそれを感知し、細胞質にあるParkinをミトコンドリア上に呼び寄せ、ミトコンドリアの分解が起こる。しかし、PINK1がどのようにParkinを不良ミトコンドリアに呼び寄せるのか、その分子メカニズムはまったくわかっていなかった。

今回、研究グループはPINK1はリン酸をタンパク質につける酵素(キナーゼ)であることに注目し、PINK1がParkinにリン酸を付加(リン酸化)するかどうかを検討したのである。

その結果、不良ミトコンドリアが生じた時にだけPINK1が活性化し、Parkinにリン酸を付加することがわかった。このリン酸の付加は、PINK1遺伝子に傷があるパーキンソン病患者の細胞では起こりない。

また、リン酸を付加しないようにしたParkinを細胞で作らせると、Parkinの不良ミトコンドリアへの移行とParkinによる不良ミトコンドリアの分解がうまく起こらなくなった。以上のことから、PINK1はParkinにリン酸を付加することによってParkinにスイッチを入れ、不良ミトコンドリアへ呼び寄せることが明らかになったのである(画像)。

疾患の起こる仕組みを分子レベルで解明することは、疾患の的確な予防法や治療法を開発するために重要だ。今後さらに研究を発展させることによって、若年性パーキンソン病原因遺伝子がミトコンドリアの機能を調節する仕組みの全貌解明へとつながると期待されるという。

今回の発見から、Parkinに正しくスイッチが入るようにして、不良ミトコンドリアを分解に導くことがパーキンソン病の治療につながると期待される。また、不良ミトコンドリアの蓄積をいち早く検出することが、パーキンソン病の早期診断法開発の鍵となると考えられる。

発症の分子メカニズムのモデル図。パーキンソン病患者では、PINK1によるParkinのミトコンドリアへの呼び寄せがうまくいかず、不良ミトコンドリアが分解されない