基礎生物学研究所(NIBB)は、植物の防御のためのオルガネラ、ERボディの膜に特異的な膜タンパク質を同定したことを発表した。

同成果は同研究所 高次細胞機構研究部門の山田健志助教、西村幹夫教授らの研究グループによるもので、詳細は「Plant Physiology」オンライン版に掲載された。

ERボディは小胞体から分化するオルガネラで、アブラナ科植物の実生や根の細胞に蓄積される。グルコシダーゼという酵素が大量に蓄積しており、病害や虫害抵抗性に関わる低分子化合物を生成しているため、病害や虫害に対する防御のためのオルガネラと考えられている。一般的に、小胞体は分泌タンパク質の合成の場と考えられているが、この小胞体からどのようにしてβグルコシダーゼを大量に蓄積した防御のためのオルガネラが形成されるかは謎となっていた。ERボディの構造は、小胞体と異なり、ふくらんだ形であるため、その膜成分に何か特徴があると考えられてきたが、これまでERボディの膜タンパク質が小胞体と同じ成分か、それともERボディ特異的な膜成分があるのかは不明のままであった。

そこで、研究チームは今回、ERボディの膜タンパク質に着目して研究を実施、転写制御因子NAI1を欠損した植物ではERボディが無くなることから、 nai1欠損株において発現が低下している2つのホモログである膜貫通タンパク質を見い出し、「MEMBRENE OF ER BODY 1(MEB1)」および「MEB2」と名付けた。

さらにMEB1、MEB2の局在を調べたところ、これらのタンパク質はERボディの膜に局在し、小胞体には局在しないことが確認された。このことから、ERボディには特異的な膜タンパク質があることが判明した。

MEB1、MEB2はERボディに局在する。小胞体とERボディを緑色蛍光タンパク質で可視化したシロイヌナズナ(ER-GFP)に、赤色蛍光タンパク質を融合したMEB1、MEB2タンパク質を発現させたときの蛍光像。MEB1とMEB2はERボディ膜に蓄積していることがわかる

MEB1、MEB2はERボディ内に局在するタンパク質、NAI2と複合体を形成するが、この複合体の形成により、MEB1、MEB2がERボディにとどまっていることが推測されたという。

ERボディ形成のモデル。NAI1転写制御因子によりNAI2、MEB1、MEB2が発現する。NAI2とMEB1、MEB2が複合体を作ることによってMEB1、MEB2がERボディ膜にとどまる

MEB1、MEB2は鉄・マンガンイオン輸送体とホモロジーがあるため、酵母を用いてMEB1、MEB2の鉄・マンガンイオン輸送能を調べたところ、これらのタンパク質は鉄・マンガンイオンともに輸送する能力があることが判明。この結果から、ERボディは細胞内の鉄・マンガンの調節に関わる可能性が出てきたという。

研究チームでは今回、新しくERボディ特異的な膜タンパク質が同定されたことにより、ERボディ形成の仕組みに近づくとともに、新たにERボディと金属イオンという視点が生じたと説明。根に多く蓄積する特徴から、ERボディが病害や虫害に対する防御だけではなく土壌の金属ストレスに関わる可能性も考えられるとしており、今後、ERボディを利用した植物防御機構や環境ストレス耐性機構の解明が進むことが期待されるとコメントしている。