IDC Japanは13日、2013年の国内IT市場において鍵となる技術や市場トレンド、ベンダーの動きなど主要10項目を発表した。発表会では同社リサーチバイスプレジデント 中村智明氏が登壇し、国内IT市場の展望を説明した。

IDC Japan リサーチバイスプレジデント 中村智明氏

中村氏は「2013年はマラソンに例えれば、先頭集団がペースを上げ、脱落するランナーが出始める時期にあたる」と述べ、同社が定義した「第3のプラットフォーム(モビリティ、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術)は、すでに市場を支配し始めている」と語った。その上で、「ITベンダーは既存ビジネスとの競合があるとしても、第3のプラットフォームへの事業シフトを実行に移す必要がある」と講じた。

2013年の国内IT市場は、クライアント/サーバー技術を利用する「第2のプラットフォーム」から、「第3のプラットフォーム」を活用する市場へのシフトが顕著になる。この動きを加速させるのは、スマートフォンやタブレット、eReaderに代表されるスマートモバイルデバイス(SMD)の需要と、それを支える通信サービスの拡充、さらにそのアプリケーションや増大するデータを管理するクラウドサービス市場の成長があると同社は考えている。

一方、クラウドの浸透は、オープンソースソフトウェアやネットワーク仮想化の技術発展をもたらし、コンバージドシステム(Converged Systems)の成長を促す。ビッグデータとソーシャル技術を活用する分野は小規模ながら成長率は高く、注目すべき多くの事例が現れると予測している。第3のプラットフォームへのIT市場のシフトは、ICTを活用する産業構造や社会インフラに想定を超える変革をもたらすと同時に、第2のプラットフォームをけん引したサーバー市場やPC市場はマイナス成長が続くと同社はみている。

2013年のICT市場は、成長著しい第3のプラットフォームをリードするベンダーと、第2のプラットフォームに強く依存したベンダー間の業容の格差が無視できなくなり、IT産業の構造変化を加速させると同社は考えている。

以上を背景として、以下に2013年の国内IT市場におけるIDC Top 10 Predictionsの概要は次のとおり。

1 - 国内ICT市場は緩やかに成長し、第2のプラットフォームから第3のプラットフォームへのシフトが水面下で加速する

SMD市場や移動体データ通信サービス市場の拡大は、同社が提唱する「第3のプラットフォーム」へIT産業がシフトしていることの証左であり、クライアントサーバーに代表される第2のプラットフォームとからの構造変化を促すエンジンと同社はみている。

2013年に、第3のプラットフォームの4つの要素市場(モビリティ、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術)は、いずれも前年比成長率が2桁になる。特に、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術は40%を超える急成長となる。4つの要素を合計した国内第3のプラットフォーム市場は、2013年の前年比成長率が約13%の2桁成長で、市場規模は約6兆6,000億円と同社は考えている。

2 - 第3のプラットフォームを活用した業種特化型ソリューションが拡大する

第3のプラットフォームを活用する方法には大きく2種類あり、第2のプラットフォームで構築した既存システムを大幅に改編することなく、仮想化技術を核にコスト削減を目的として行うクラウドイネーブル(Cloud Enabled)型と、新規のシステムを第3のプラットフォームを前提に構築するクラウドネイティブ(Cloud Native)型である。高成長が期待できるのは後者のクラウドネイティブなシステムであり、業種特化型ソリューションの成長もいかにクラウドネイティブなシステムを構築するかにかかっていると同社は注視している。

3 - スマートモバイルデバイス(SMD)ユーザーの増加が、マルチデバイス、アクセスプラン競争、法人利用を加速する

スマートフォンの「一般ユーザー」層への移行は、日本が世界的に見ても先行しており、2013年のモビリティ関連市場において、次の3つの潮流を生み出すと同社は考えている。

  • マルチデバイスの加速:スマートフォンの利用浸透がタブレットの普及を加速する。2013年第4四半期には、タブレットの出荷が199万台に達し、家庭市場向けポータブルPCの出荷(166万台)を上回ると同社はみている。

  • アクセスプラン競争の激化:マルチデバイスの需要が高まる一方で、アクセスプランの内容とそれに対応する価格体系の変化に対し、消費者や企業はこれまで以上に敏感に反応し、MNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者)、MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)、FNO(Fixed Network Operator:固定系通信事業者)による契約者の争奪戦が加速していくと同社は予測している。

  • 法人へのSMD導入の加速:一般ユーザー層へのSMDの普及が、法人へも波及し、企業でのSMD利用が加速する。特に経営層のSMDへの関心の高さが、法人への導入を加速し、第3のプラットフォームへの移行を加速する傾向もみられるだろう。逆にそのハードルを越えられない企業は、第2のプラットフォームに取り残されることになると同社は考えている。

4 - BYODの法人利用でセキュリティ脅威が顕在化し対策が求められる

不正プログラムを組み込んだ非正規アプリケーションのダウンロードや、なりすましなどによる業務システムへの不正アクセスの多発など、認証の脆弱性の問題が顕在化すると同社はみている。

第3のプラットフォームにIT基盤が移行する中、ユーザー企業側には、こうしたセキュリティリスクにおいて、SMDに対する対策を進めると共に、業務システムの設計/導入/運用といったビジネスプロセスと連携した対策が求められると同社は考えている。

5 - 国内クラウド市場におけるベンダー間の戦いは静かに熱いものとなる

具体的には、ホステッドプライベートクラウドの主導権を巡る戦いと、ビッグデータをコアとする業種特化型ソリューション(Intelligent Industry Solution)を提供できるベンダーに注目が向けられると同社は予測する。

2013年は、医療クラウド、農業クラウドに次いで、ビッグデータを用いた業種特化型のプラットフォーム(PaaS)を核としたサービスの具現化が進むであろう。また、そのビジネスモデルはPaaSではなく、SaaSやBPO(Business Process Outsourcing)サービスへと移行していくと同社はみている。

6 - 2013年はSDN市場元年となり、OpenFlowの波がエコシステムを形成していく

SDNに関連するハードウェア、ソフトウェア、サービスで形成されるエコシステムは、2016年において300億円以上の市場規模になると同社は予測する。

2013年はクラウドサービスプロバイダーにおいてネットワークに起因する課題と限界が顕在化すると考えられる。また、大手ユーザー企業のデータセンターにおいても同様の課題が浮上し、対策の必要に迫られることになる。

7 - コンバージドシステムを巡る競争がサーバーベンダーの生き残りを左右する

ハードウェアと運用管理ツールを組み合わせたコンバージドシステムとして製品化が進んで、IT機器ベンダーの競合はこの点に集約されると同社は予測している。

ハードウェアベンダーとして有している設計、製造、販売、保守といった機能のうち、どの機能において競合他社に対して優位性を保持しているのか、その優位性をどのようにコンバージドシステムに生かしていくのかといった本質的な議論の下でハードウェアビジネスの在り方を再考すべきと同社は考えている。

8 - 第2のプラットフォームベンダーによるビッグデータビジネスは苦戦し、IT企業と非IT企業の合従連衡が加速する

現在アウトソーシングビジネスやデータセンタービジネスを手掛けているITベンダーやデータ分析などのBPOを手掛けるプレイヤーが中心となって、2013年は急速にビッグデータサービスメニューが整い、ビッグデータサービスメニューは、クラウドを前提としており、5で触れた業種特化型プラットフォームと結びついて、IT企業と非IT企業との連携により発展していくと同社は予測している。

9 - 企業向けソーシャル技術の活用ターゲット市場が明確となり競争が始まる

2013年の企業ソーシャルネットワーキングの進展は、コンタクトセンターシステムや人材リクルーティング、O2O(Online to Offline)マーケティングなど、目的の明確な、業務に近いアプリケーションにソーシャルネットワーキングテクノロジーが入り込む形で進展し、その利用目的が特定され、明確なターゲットを持つ業務アプリケーションとの連携/融合が起こり始めると同社はみている。

10 - オフィス向けIT市場でITベンダーとHCP(Hardcopy Peripherals)ベンダー間の主導権争いが始まる

2020年時点のオフィス環境においては、現在のドキュメントや紙を中心としたワークスタイルと、第3のプラットフォームを活用したワークスタイルとが融合した、新たなワークスタイルが確立していると考える。2013年は、産業の垣根を越えた多くのベンダーによって、将来のオフィス環境に対するビジョンが提示されると共に、各ベンダーがトップ集団に留まることができるかどうかを占う重要な年となると同社は注視している。