作物の生育状況は気象条件によって左右される。その時に影響を受ける作物の遺伝子も解明され、データベース化もされつつあるが、実験レベルでの解明やデータであるために、まだまだ育種や栽培法などの実利用には至っていない。農業生物資源研究所は、実際に水田で育てられているイネの葉の全遺伝子の発現量データを解析し、気象データなどと照合することで、イネの葉のほとんどの遺伝子の働き方を予測するシステムを開発した。これにより、過去の気象データを用いて高温障害などに関連する遺伝子を特定できるほか、イネや他の作物の生育状況の予測、施肥や農薬散布などの適切な時期の把握などが可能になるという。

発表によると、同研究所植物生産生理機能研究ユニットの井澤毅・上級研究員や農業生物先端ゲノム研究センターの長村吉晃・ゲノムリソースユニット長らのグループは、茨城県つくば市内の水田で2008年6-10月に採集したイネ(日本晴、農林8号)の葉461枚における全遺伝子(27,201個)を解析し、それぞれの発現量(mRNAの発現量)のデータを得た。さらに、採取時の気象データ(風量、気温、湿度、日照、大気圧、降水量)や採取条件などを基に大型コンピュータで統計的な解析を行った。その結果、イネの葉では17,616個の遺伝子が働き、うち17,193個の遺伝子については主にイネの体内日周リズムや植物齢、外気温や日照などによって発現量が影響されることが分かった。

こうした結果から研究グループは気象データと田植え後の日数、採取時刻を入力するだけで、任意の遺伝子の発現を予測するシステムを開発した。実際に2009年に水田のイネの葉108個を採取し、17,193個の遺伝子の発現量を実測したところ、今回開発のシステムによる推定値と一致し、高精度で多くの遺伝子の働き方を予測することができたという。

イネの田植え直後からコメが実るまでの期間中に働く全遺伝子の解析は世界的にも例がなく、実際の複雑な気象変動を踏まえた上で遺伝子の働き方を推定するシステムも世界初の成果として注目される。研究論文は7日、米科学誌「セル(Cell)」に掲載された。

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