ナリス化粧品は、皮膚の表皮に存在する「ヒアルロン酸」の未開拓分野の生理的役割に着目して研究を行ったところ、肌のバリア機能にはヒアルロン酸の"分子量"の関与が大きいことなどを確認したと発表した。研究結果の詳細は、12月7日~9日に沖縄で開催された日本研究皮膚科学会で発表された。

今回の研究は、美容に関する重要な要素として一般に浸透しているヒアルロン酸について、従来は外から塗布する用途が主であったのに対し、今まであまり着目されてこなかった皮膚が作るヒアルロン酸の生理的役割に着目して行われた形だ。

今回の研究では(一般的な)高分子ヒアルロン酸と(人工的な)低分子ヒアルロン酸の違いによる作用の違いに着目して研究が進められた。

普段、紫外線を浴びている顔(露光部)と紫外線を浴びていない上腕内側(非露光部)のヒト皮膚におけるヒアルロン酸と肌状態の関係について調査を実施したところ、露光部の皮膚は非露光部に比べ、ヒアルロン酸の量(ng/ml)は上回っていたが、分子量は小さく、また水分保持蒸散量(g/m2h)が多く、バリア機能が低いことが判明した(画像1・2)。この結果から、肌のバリア機能には、ヒアルロン酸の数量よりも分子量そのものが大きく関与しているということが明らかになった。

画像2は、ヒアルロン酸の量と分子量、表皮水分蒸散量の関係性。非露光部に比べ、露光部はヒアルロン酸の量は多いが、ヒアルロン酸の分子量は小さい。そして表皮の水分蒸散量は多く、このことからヒアルロン酸の分子量が水分保持能力(バリア機能)に大きく関わっていることが示唆された。

画像1。高分子と低分子のヒアルロン酸それぞれの皮膚への効果をイメージしたもの

画像2。ヒアルロン酸の量と分子量、表皮水分蒸散量それぞれの関係性

さらに、分子量により、表皮細胞の分化(「基底層」から「有棘層」、「顆粒層」、「角層」と変化して肌表面が作られること)の過程に大きな差が生じることが確認された。

表皮は分化が正常に行われていないとバリア機能が低く、水分保持能力の低い肌になってしまう。高分子ヒアルロン酸と低分子ヒアルロン酸を添加して表皮細胞の培養をした結果、高分子ヒアルロン酸を添加した場合は、分化に関わる遺伝子の発現量が添加しないものに比べて高くなることが判明。逆に、低分子ヒアルロン酸を添加した場合は分化に関わる遺伝子の発現量が添加しないものに比べて低く、分化を抑制することがわかった(画像3)。

画像3は、分子量の異なるヒアルロン酸添加による分化に関わる遺伝子の発現量変化。表皮細胞が分化する過程の遺伝子(KRT1・KRT10・IVL・LOR)の発現量を確認。高分子ヒアルロン酸を添加した方は、遺伝子発現量が増加し、低分子ヒアルロン酸を添加した方は、遺伝子発現量が低下していることが見てとれる。

画像3。分子量の異なるヒアルロン酸添加による分化に関わる遺伝子の発現量変化

高分子のヒアルロン酸は直接肌表面から吸収することができない。そのため、皮膚内で合成する形だ。年齢によるヒアルロン酸代謝の違いを調べるため、若齢・高齢ドナー由来のそれぞれの表皮細胞に、紫外線を照射し、ヒアルロン酸の代謝を担う酵素とヒアルロン酸受容体の遺伝子発現量の変化を観察した結果、若齢由来の細胞は紫外線照射しないものに比べ、代謝を担う遺伝子の発現量がほぼ2倍に増えていることがわかったが、高齢由来の細胞は代謝を担う遺伝子の発現量があまり増えないことが判明した(画像4)。

つまり、若い肌は紫外線を浴びると代謝が活性化するため、低分子化したヒアルロン酸を高分子のヒアルロン酸に作り変える力が高くなるが、加齢した肌は紫外線を浴びても代謝が活性化しないため、低分子化したヒアルロン酸は高分子のヒアルロン酸に作り変えられず、どんどん蓄積されてしまう。その結果、加齢した肌は分化が抑制されバリア機能の低い肌になることがわかったのである。

画像4は、ヒアルロン酸代謝を担う遺伝子発現への加齢・紫外線への影響。ヒアルロン酸代謝を担う酵素やヒアルロン酸受容体の遺伝子(HAS1・HAS2・HAS3・CD44・HYAL1・HYAL2)の発現量が確認された。

画像4。ヒアルロン酸代謝を担う遺伝子発現への加齢・紫外線への影響。ヒアルロン酸代謝を担う酵素やヒアルロン酸受容体の遺伝子(HAS1・HAS2・HAS3・CD44・HYAL1・HYAL2)の発現量を確認

また数10種類の成分をスクリーニングしたところ、サルビアやオトギリソウ、ザクロなどには、ヒアルロン酸の代謝を担う遺伝子の発現量を増やす働きがあることも確認されたという。

同社は今後、この研究をさらに深め、加齢と共に衰える肌のバリア形成機能を高める化粧品の開発などにつなげていきたいとの考えを示している。