大須大道町人祭の「金粉ショー」には多くの見物客が集まる

大須(おおす)商店街といえば名古屋の中でも、とびっきり元気な商店街だ。大須観音の門前町として発達したこの商店街は下町風情を残しつつ、家電店や古着屋、サブカル、エスニックなどが混然一体となって独自のカルチャーを形成。休日にもなると多くの人が押し寄せる。そんなカオスさがウリの大須商店街で、毎年10月に行われるのが「大須大道町人祭」だ。

ほぼ全裸の男女ダンサーらによる「金粉ショー」

その名の通り、日本中から名うての大道芸人が集まるストリートパフォーマーの祭典。しかし、名古屋人はこの「大道町人祭」の名を出す時、頭の中であるコトバと必ず結びつけて顔がニヤニヤし始める。「ああ、金粉ショーのねぇ」と。

この金粉ショー、大道町人祭の代名詞となっているほどの恒例出し物。しかし実際に見るとアゴが外れる程の衝撃を受ける。局部だけを隠した「ほぼ全裸」の男女ダンサーが全身に金粉を塗りたくり、公衆の面前で舞踏パフォーマンスを行うのだ。

男性ダンサーはまぁいい。問題は女性ダンサーだ。初めて見た時は、胸には超ミニのビキニかニプレスでも付けていると思っていた。

しかしよく見ると女性は完全におっぱい丸出し。それを隠そうともしない。下もTバックを通り越して、ほとんどヒモ状態。時には男が女の身体を持ち上げ、プロペラのように振り回したり燃え盛るトーチを振り回したりすることも……。

ダンサーはアングラの世界では知らぬ人はいない、「大駱駝艦(だいらくだかん)」の艦員(メンバー)。世界的に知られるこの舞踏集団のパフォーマンスがタダで見られるのは素晴らしいことだけれど、よくぞまあ公然わいせつ罪でタイホされないものだと思う。

あふれるカメラマン達。女性ダンサーのトップレス姿には目がくぎづけに

これは「アート」か? それとも観音様への「奉納」か?

もちろんカメラ小僧もわんさかで、この希少な被写体をバシャバシャと撮影している。この金粉ショー、踊る場所もすごい。なにせ大須商店街内にあるお寺の境内で踊るのだ。そのクライマックスであるショーが行われるのが、大須観音の中央階段ステージ。

日のとっぷり暮れた大須観音に浮かび上がる6体の金ピカダンサー。光に照らされたゴールデンボディーが暗闇に浮かび上げる。BGMは民族音楽とハウスミュージックが融合したような異次元的なサウンド。そして背景は、いかにも日本的な朱塗りの伽藍(がらん)や大ぢょうちん。どこを切り取ってもアングラでシュールなのだ。

このショー見たさに2時間前から場所取り合戦が発生し、場所にあぶれた人々もショーを ひと目見ようと、境内には黒山の人だかりが出現する。

そこでは、アングラとは縁もゆかりもない子どもから老人までの善良な市民が、ぷるんぷるんと揺れる金色のおっぱいやおしりを眺めているのだ。この狂気さえ感じさせる混沌(こんとん)とした熱気は、その場でないと分からない。

観音様の面前で繰り広げられるパフォーマンスは、いかにもアグレッシブ

それにしても観音様の御前である。人間界では罪に問われなくても、観音様には罰当たりではないのだろうか? しかしこのショー、観音様への奉納とも見えなくもない。奉納とは、神仏を敬うために「価値のあるもの」を供物として神仏にささげる宗教的な行為のことをいう。供物には、金銭や食べ物はもちろん、歌舞音曲も含まれる。

たゆまぬ鍛錬を積んだ大駱駝艦のしかも黄金に光り輝く舞踏だ。そう考えると、もしかしたらこれ以上の奉納はないかもしれない。さらに、この半裸ショーは当然ながらセクシャルなエネルギーもみなぎっている。そこで連想されるのが、チベット仏教の秘仏ヤブユム(歓喜仏)だ。

ヤブユムは男女合体仏像で、日本の仏教では考えられないことだが、男女の仏様カップルがまぐわっている。性行為を宇宙エネルギーの根源と表現しているのだ。そう考えるとこの金粉ショーは、日本におけるリアル・ヤブユムなのかもしれない。