東京大学(東大)は、モーター分子としてタンパク質「KIF19A」を新たに発見し、それが繊毛を切りそろえて長さを決めるハサミの役割をすることを発見したと発表した。

同成果は同大 大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学講座/分子構造・動態学講座の廣川信隆 特任教授、同 丹羽伸介 特任研究員らの研究グループによるもので、詳細は米国科学雑誌「Developmental Cell」電子版に掲載された。

哺乳類の卵管や脳室などの細胞には、繊毛と呼ばれる長さ5~10μmほどの微細な動く毛が存在しており、例えば卵管では卵管上皮細胞の繊毛の運動により卵子が卵巣から子宮に輸送され、脳室では脳室上皮細胞の繊毛の運動により脳脊髄液の循環が起こり、脳圧が一定に保たれている。こうした効果から、もし繊毛に異常が起これば卵管閉塞による不妊症、脳圧の上昇による水頭症などのさまざまな病気が生じることとなる。

動く繊毛が卵管内部で卵子を輸送したり、脳脊髄液の流れを作り出したりするためには、長すぎても短すぎても繊毛の運動には支障が出て、不妊症や水頭症といった病気が起こることから、繊毛の長さが適切に保たれている必要がある。

そのため、哺乳類では何らかのメカニズムによって繊毛の長さが一定に保たれていることが50年以上前から予測されていたが、その実体はこれまで不明のままであった。

今回、研究グループは、繊毛の先端にKIF19Aが集積することを発見し、そのタンパク質に着目して機能の解析を行った。繊毛の内部は微小管と呼ばれる微小なチューブが束になって構成されていることが知られているが、試験管内で精製したKIF19Aとこの微小管を混ぜたところ、微小管が先端から徐々に壊されることが確認された。

さらに遺伝子工学の手法により作製したKIF19Aが働かないマウス(KIF19Aノックアウトマウス)を用いた実験では、繊毛の長さが2倍から3倍ほどになることが確認された。

これらの結果からKIF19Aは繊毛の先端を切りそろえるハサミの役割をしているとの結論が得られたほか、KIF19Aノックアウトマウスの長すぎる繊毛には運動に支障が生じ、卵管閉塞による女性不妊や水頭症といったヒトの病気とよく似た症状が起こっていることも確認された。

卵管閉塞による女性不妊や水頭症の正確な原因は不明なことが多いが、今回の発見はこれらの病気の正確な遺伝子診断や遺伝子治療、リスクの予測や予防などに役立つ可能性があり、将来的には水頭症や不妊症のリスクの予測や予防、正確な遺伝子診断や遺伝子治療に結びつく可能性があると研究グループではコメントしている。