農業生物資源研究所(生物研)と農林水産先端技術研究所(JATAFF研)は、共同参加しているブタゲノム解析のために日本・英国・米国・オランダといった12カ国・地域の大学・研究機関などで構成される国際コンソーシアム「国際ブタゲノムシーケンシングコンソーシアム(SGSC)」が、ブタゲノム塩基配列の解読を行い、ブタゲノム上には、およそ2万5000個の遺伝子が存在することを明らかにしたと発表した。同成果は英国科学雑誌「Nature」に掲載された。

ゲノム情報を用いた品種改良により、耐病性、高繁殖性、高成長性、良食味といった有用な形質をブタに付与していくためには、有用な形質と関連するゲノム上の領域を明らかにするだけでなく、有用な形質を支配する遺伝子そのものを同定することが重要となっている。

これを実現するためには、全ゲノム塩基配列とともに、実際にブタの生体内で働いている遺伝子の配列を理解する必要があるほか、ブタゲノムの情報は、医療分野などで実験動物としてブタを有効利用するためにも必要不可欠となっていた。

家畜動物では、これまでに、ウシやニワトリにおいて全ゲノムの塩基配列が解読・公表されているが、ブタゲノムについては、2009年11月にSGSCが全塩基配列の概要解読(全ゲノム塩基配列の90%以上をカバーし、他の動物種のゲノムとの比較が十分に可能なレベルのもの)を完了したことを宣言していた。その後も研究は継続しており、SGSCでは結果の詳細な解析と成果のとりまとめが進められ、生物研とJATAFF研を中心とした研究グループでは、ブタゲノムの中で実際に働いている遺伝子の配列を明らかにするために、完全長cDNAを用いた解析を進めてきていた。

解読に用いられたブタはデュロック種(食肉生産において重要な品種)で、ブタゲノムおよそ28億塩基の配列が解読された。研究グループは、ブタの染色体のうち、第6および第7染色体の一部を担当したという。また、免疫系の遺伝子は、遺伝子の重複が多いため、SGSCでの概要解読で明らかにできなかった部分が多数残存しているものの、その多くについては同研究グループなどにより別途精密な解読が行われており、現在は高品質なブタゲノム塩基配列が利用可能となっているという。

またSGSCでは、世界各地のブタやイノシシのゲノムについても並行して解読を行っており、それらの結果とデュロック種のゲノムとの比較を実施。その結果、イノシシのブタへの家畜化がヨーロッパと東アジアで独立に行われたことや、ヨーロッパとアジアのイノシシがおよそ100万年前に分かれたことなどの知見を得たという。

さらに、ブタゲノム塩基配列上の遺伝子の配列と構造を明らかにするためには、実際にゲノム上から転写された(写し取られた)遺伝子の配列を収集し、解読を行う必要があったことから、研究グループでは、様々な臓器や細胞を用いて完全長cDNAを収集、3万1079個の完全長cDNA の配列を明らかにした。

SGSCで明らかとなったブタゲノムの概要塩基配列との比較した結果、これらの完全長cDNA は、およそ1万5000個の遺伝子に由来するものと推定されたという(1つの遺伝子から複数のメッセンジャーRNAが作られる場合があるため、遺伝子よりメッセンジャーRNA(=完全長cDNA)の数の方が多くなる)。

すでにSGSCでは、ブタゲノム概要塩基配列上におよそ2万5000個の遺伝子が存在することを明らかにしていたが、その半分以上の構造の決定に、研究グループが解析した完全長cDNAの配列が貢献したとのことで、研究グループでは、今後、今回解読されたブタゲノムの塩基配列と、他の様々な品種のゲノム塩基配列を比較することで、優良な形質と関連のある遺伝子の位置を明らかにできるようになり、これにより、肉質、繁殖性、抗病性などに優れたブタの品種を開発する期間を短縮することが可能になるとの期待を示すほか、臓器移植などの医学用モデル動物として利用したり、医薬品などの試験用動物として使用する場合に必要なゲノムや遺伝子情報の把握ができたことから、中型実験動物としてのブタの利用も加速化することが期待されるともコメントしている。