アレクサンダー・グラハム・ベルの時代から脈々と受け継がれ続けてきた有線電話の時代は間もなく終わりを告げることになるのかもしれない。同氏が設立した初の長距離電話会社Bell Telephone Companyの流れを汲む米AT&Tは、従来型の電話サービスを終了させ、すべてをワイヤレスならびにインターネットベースのブロードバンド回線へと置き換えていく計画だという。

米Wall Street Journalの11月7日(現地時間)の報道によれば、同社は現在米国22州で家庭と企業ユーザー7600万をカバーしている銅線電話回線のビジネスから最終的に撤退する意向だという。AT&Tは今後3年で140億ドルを投資し、インターネットベースのブロードバンドサービスを従来型電話回線のサービスエリアの75%まで拡大、さらにはワイヤレス回線を組み合わせてカバーしていく計画だ。これにより、ブロードバンド回線サービスの対象回線数が850万ほど拡大するが、一方で現行の電話回線ユーザーの4分の1にあたる1900万ユーザーはAT&Tから電話回線サービスを受けられなくなる可能性がある。こうしたユーザーは(ブロードバンドの)ワイヤレス回線でサポートされる形になり、最終的に2014年末時点で現行の電話回線ユーザーエリアの99%は何らかのブロードバンドサービス提供が受けられるようだ。

現在AT&TやVerizon Communicationsなど、大手電話サービス会社は既存の有線電話回線ビジネス事業を徐々に縮小しており、低コストでより利益率の高い携帯電話ビジネスに注力しつつある。大きな需要があるエリアには有線によるブロードバンドサービスを提供し、残りのエリアを携帯電話ネットワークで広くカバーする計画だ。だが同時に従来回線保守のために大量に抱えていた人員の整理が発生するなど、関連リストラが労働争議となりたびたび大きな問題に発展している。今後もこうしたトレンドは続いていくはずだ。

また別の問題として、公共サービスの観点から今回の動きにブレーキがかかる可能性も指摘されている。先日米東海岸を襲った巨大ハリケーンの"Sandy"だが、インフラが復旧するまでの期間、長らくニューヨーク近郊の市民のコミュニケーション手段として活躍していたのが他ならぬ「公衆電話」だったりする。Verizon Communicationsは公衆電話ビジネスからすでに撤退しているが、ローテクの電話回線のほうがIP電話や携帯電話よりも災害に強く、市民の連絡手段として活用されたのは皮肉な話かもしれない。AT&Tによれば、11月8日時点で市内の通信インフラの多くは復活したとしているが、こうしたAT&Tら大手の急進的な動きに新たな議論を巻き起こすことになるだろう。

(記事提供: AndroWire編集部)