ATRなど、ネットワーク型BMIの一般生活検証用施設「BMIハウス」を開発

国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、NTT、島津製作所、積水ハウス、慶應義塾大学(慶応大)の5者は11月1日、「ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)」(画像1・2)の研究開発を共同で推進し、一部の機能において一般の生活環境へ適用できることを明らかにしたと共同で発表した(画像3)。

画像1。BMIについて

画像2。ネットワーク型BMIについて

画像3。今回の研究開発は、BMIを実験室から一般の生活環境へと移すことに狙いがある

今回の研究開発は、高齢者や要介護者の自立社会の実現に役立つ基本技術として、現状では病院や実験室に閉じている技術であるBMIを、ネットワーク型にすることで社会生活に利用可能な者へと確立することを目指すものとしている。総務省の「脳とICTに関する懇談会」でものその重要性が認識されたものだ。

ネットワーク型BMIは、日常生活において脳活動をはじめとする各種センサデータをリアルタイムに収集する技術、そのデータをネットワーク上のサーバに蓄積してデータベース化する技術、その解析結果により適切な機器制御を行う技術、およびこれらの技術を必要に応じて組み合わせる技術などから構成される。これらにより、BMIを「いつでもどこでも誰でも」利用可能なものとする開発が進められてきたというわけだ。

ネットワーク型BMIの研究開発の推進によって、一部の機能において一般の生活環境へ適用できることが明らかになり、今回、一般の生活環境において、自律制御機能が組み込まれた電動車いすに搭乗した利用者が、BMIによって社宅内での地点間の移動や家電の制御が可能であることを最新実験によって確認した次第だ。

具体的には、「脳波計測(electroencephalography:EEG)」と「近赤外分光脳計測(near-infrared spectroscopy:NIRS)」によりとらえた脳活動に基づき、利用者の意志をリアルタイムに解読し、車いすや家電の制御を実現したというものである。

なお、EEGとは脳内神経細胞の活動で生じる微少電流を、頭皮につけた電極で非侵襲的に計測する脳活動計測法のこと。NIRSは、脳内神経細胞の活動に伴う脳内血流上の変化を、近赤外光を用いて頭皮上から非侵襲的に計測する脳活動計測法だ。

一般生活環境における脳情報の解読とそれによる制御は、大規模なデータベースとコンピュータ資源を必要とするが、今回は数種類の生活シーンを抽出し、ネットワーク上のサーバに置かれたデータベースの検索処理により可能としている。ちなみに、今回の技術の検証には、情報通信研究機構の新世代通信網テストベッド「JGN-X」が利用された。

また、ネットワーク型BMIを構成する技術開発の現状と今後の点に関しても触れられており、まず「携帯型脳活動計測装置」(画像4)について。島津製作所は言語・視覚・聴覚・運動などに伴う脳活動を非侵襲的に計測できるNIRSを手がけているが、今回、生活環境で車いすに乗った被験者の脳活動を計測できるようにするため、NIRSを車いすに搭載して移動できるよう小型・軽量化を施し、脳活動計測データを無線で送信できるようにした。

そして携帯型脳活動計測装置のさらなる小型・軽量化を進め、装着者に大きな負担がかからないように装着できるようにし、脳活動を図ることのできるシステムの実現を目指すとした。

それから、従来の脳波計はジェルの塗りつけが必要だったが、慶応大でそれが不要とした、従来よりも大幅に取り付けが簡便になったEEGとは脳内神経細胞電極を開発し、その有効性を確認している。今後は、その実用化とさらなる高精度化、NIRSとの一体化を進めていくとしている。

画像4。携帯型脳活動計測装置

ネットワーク型BMI情報処理基盤技術(画像5)については、NTTの担当である。同社は、データやその処理(プログラム)を部品化し、ネットワークを通じて結合することで、さまざまなサービスをさまざまな場面や個々の利用者に応じて提供できる情報処理基盤技術の研究開発に取り組んでいるところだ。

今回、そうした技術は脳活動をはじめとする各種センサデータの収集やその勝利に応用され、一般生活環境におけるBMIの利用のために、ネットワークを介してデータ蓄積・解読・機器制御できることを疑似データを用いたシミュレーションにより検討した形である。

今後は、今回のプロジェクトにおいて、実環境実験設備「BMIハウス」(後述)における動作を確認し、BMIを利用して個々の利用者の多様な生活シーンに対応可能とする情報処理基盤技術の研究・開発を推進していくとした。

画像5。ネットワーク型BMI情報処理基盤技術

続いては、前述したBMIハウス(画像6)について。ATRと積水ハウスが、生活環境を模して構築したのが、BMIハウスである。日常生活を送れるように住宅としての体裁を保ちつつ、生活行動をBMIでサポートできるように各種センサとアクチュエータ(生活支援機器)を配備している。

今後は、データベース作成のための長時間計測の実施、およびBMIを活用した生活のあり方の検討を行い、高齢者や要介護者が自立生活をするために必要なBMIの基本技術の確立・検証の場として利用していくという。

そしてデータ駆動解読技術(画像7)について。ATRは、BMIハウス内での数種類の生活行動に対し、BMIにより利用者の意図を解読し、支援を行う技術を実現した。これは、ネットワーク上のサーバに置かれた利用者の過去の脳活動に関するデータベースをリアルタイムに検索することで行う仕組みだ。

今後は、さまざまなノイズの影響を軽減しつつ、多様な生活シーンにおけるBMI利用を可能とすべく解読技術の研究開発を継続することで、従来は主に実験室内で多大な訓練を必要としていたBMI制御を、「いつでもどこでも誰でも」利用可能なものに近づけていくとしている。

画像6。実環境実験設備「BMIハウス」

画像7。データ駆動解析技術

さらに、移動支援機器の安全制御技術(画像8)について。BMIを日常生活において利用するためには、安全性の確保は不可欠だ。ATRでは、ネットワークが断絶、あるいは脳活動の解読が誤った場合でも、安全な機器制御を担保するための技術を開発していくとする。

機器自身に搭載されたセンサによる安全性、環境側に設置してあるセンサによる安全性、さらに遠隔モニタリングによる安全性の3段構えで安全を確保していくという。これまでに、見通しのよい場所において移動支援機器単体での衝突回避と、環境センサを利用した障害物認識を実現している。今後さらに研究開発を進め、一般の利用者が安心して使用できるBMI移動支援機器制御の実現を目指す予定だ。

画像8。移動支援機器の安全制御技術

最後は、倫理的課題について。脳科学に基づく新しい技術であるBMIが一般に受けいられるようになるには、それに伴う倫理的な課題が解決されることが必須であるとの認識に基づき、脳神経倫理の有職者への調査などを実施し、その結果を研究開発に反映してきたとする。今後も、さらなる調査や一般への広報活動などを通じ、ネットワーク型BMIが社会に受け入れられる方策の検討およびその実施を進めていくとした。

ネットワーク型BMIの運用がもたらすさまざまな生活機器の制御可能性により、超高齢社会に突入した日本において、利用者の行動範囲の拡大、それに伴う介護解除の軽減などが期待されるという。

今後は、日常生活での一般的な意志の解読や脳情報の解読精度の向上など、実用化に向けて解決しなければならない課題も明らかにしていくとしており、2014年度までの研究開発期間を通じてさらなる連携体制を強化した上、こうした重要課題に対して対応していくという。

また、今回の研究開発以後の展開(画像9)として、BMIがネットワーク化され、部品化されたデータとその処理がクラウド上に分散配置されることで、さまざまな場所で携帯型脳活動計測装置を装着した多数の利用者に対して汎用的なサービスが提供される可能性を念頭に、そうした拡張性に配慮して進めていくとした。

なお、今回のネットワーク型BMIは、11月8日(木)・9日(金)に開催される、「ATRオープンハウスでも紹介される予定だ。

画像9。今後の展開と将来イメージ



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