日立製作所と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は11月1日、KEKの放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)に、元素周期表のLiからCaまでの幅広い元素について固体中の化学結合状態を解析できる軟X線ビームラインを共同で設置する契約を締結したと発表した。

先端材料開発の分野では、物質の特性を決める要因となる原子の化学結合状態を解析し、これをコンピュータによる理論シミュレーションと比較しながら、材料の高機能化、高性能化に向けた研究が進められている。現在、原子の化学結合状態を解析する手法として、X線吸収分光法やX線を用いた光電子分光法が利用されているが、いずれの手法も、対象とする元素に応じて特定のエネルギーを持つX線を利用する必要があるため、これまでフォトンファクトリーなど放射光実験施設では、研究目的に応じてビームラインを設置、運用する必要があった。 今回、新設されるビームラインは、1本のビームラインで幅広いエネルギー範囲(30~4,000eV)にわたる軟X線を利用し、元素周期表におけるLiからCaまでの元素の化学結合状態の解析を実現可能にするもの。放射光の発生源に、偏光可変の放射光を発生させることのできる6列型アンジュレータを採用し、水平偏光および垂直偏光の高輝度軟X線の利用が可能になるという。

KEKでは、これらの高輝度軟X線を利用することで、リチウムイオン電池の高性能・長寿命化に影響する電極材料中でのリチウムの化学結合状態の解析や、Cを含む有機化合物の計測に基づく生体細胞の解析が実現できるようになるほか、Fe、Co、Niなど、各種モータで利用される永久磁石の性能の決め手となる材料の解析も行えるため、原子レベルの解析に基づいた材料の高性能化や新材料の開発に寄与することが期待されるとする。また、広いエネルギー範囲を持つビームラインの利用により、1回の実験で幅広い元素にわたる物質解析が可能となるため、研究の効率化も図ることが可能になるとしている。

なお、KEKでは同ビームライン稼働後は一般の大学・公的研究機関などにも公開し、機能性酸化物や次世代デバイス材料などの基礎研究を推進するとしている。新ビームラインは、2014年度中に運用を開始する予定。