まるで高級牛のように見えるが、実はくじらなのだ!

筆者は40代だが、子供の頃、くじらの竜田揚げや煮物は、ちょっとしたご馳走(ちそう)だった。肉のようでいて肉ではない、魚とは絶対的に何かが違う。くじらの深みのある濃厚な味わいは、独特の魅力だった。

しかし時を経て、グリーンピースをはじめとした海外の捕鯨反対運動をTVで頻繁に見るようになったことで、不思議な罪悪感が植えつけられた。「そうだったのか! くじらは食べちゃいけない生きものだったんだ!」。

捕鯨反対をとなえる白人たちの血走った目にビビッただけかもしれないが、あの時期、一般家庭の食卓からもスーパーの肉売り場からも鯨肉が消えていたように思う。「牛も豚も羊もいいのに、どうしてくじらは食べちゃダメなのか?」という疑問を残しながらも。

全国一の鯨肉年間個人消費量を誇る長崎県

かくして鯨料理にご無沙汰なこと20年ははやてのように過ぎ去った。そして40代に入ったつい最近、長崎に住む自称ジャーナリストの友人から「鯨食」の伝統を守り続けている平戸市の「じりじり鍋」の話を聞いたのだ。

彼は一枚の鍋の写真を携帯メールで寄こしてきたのだが、そのウマそうなことったらなかった。直感的に、これは竜田揚げなんかをはるかに超える絶品に違いないと感じたのは、やっぱり僕が、幼少期に鯨を食べて育ったからだろう。

平戸市のみならず、長崎ではくじらがよく食されているらしい。長崎県の鯨肉年間個人消費量は、なんと全国一位だという。このこと、みなさんご存じだっただろうか?

とりわけ平戸市。江戸時代に日本最大規模の鯨組(昔、鯨漁に向かう男たちの船団は「鯨組」と呼ばれていた)の本拠地があったらしい。数百年たつ今も正月や祝いごとにはくじら料理がかかせないほど、鯨食文化が息づいているエリアだという。

溶き卵と絡めてすき焼き風にするのもよし!

くじらのうまみをたっぷり含んだ濃厚スープ

中でも絶品と名高い「じりじり鍋」は、秋から冬にかけての今が旬だという。一体どんな鍋なのか、「鯨フェア」のイベント開催事務局も併設している平戸市商工物産課の久豊さんに尋ねてみた。久豊さんによると、鯨は約300年前から日本人に親しまれてきた食材だという。

数あるくじら料理の中でも、くじらの油と赤肉のうまみを存分に引き出しているのが伝統料理「じりじり鍋」。火にかけた時に鯨の皮が「じりじり」という音を発することから、この名で親しまれている。

作り方を簡単に説明すると、くじらの皮を鍋に入れ、そこから染み出した脂でまずは野菜類を炒める。火が通ったらダシを注いでしっかり味付け。しばらく煮てから、くじらの赤身をどさりと入れる。煮すぎると固くなるので、さっと火が通ったところで、できあがり。

溶き卵と絡めてすき焼き風に味わう店も多く、中には締めにうどんを入れる店もある。野菜とくじらのうまみをたっぷり含んだ濃厚スープを1滴残さず、うどんにからめて味わい尽くすとはなんとぜいたくな!

「平戸市では鯨食の文化を残していくため、そして地域への経済効果も狙うために、毎年『くじらフェア』を行っています。2012年度も10月9日から12月30日まで開催していますので、ぜひ遊びにいらしてください。鯨料理の名店が数々参加していますので、きっと楽しんでいただけますよ」(久豊さん)。

フェアには、鯨の最高部位を激安で味わえる店や、くじらかつバーガーやくじらのどっさり入った絶品ちゃんぽんを出す店などが参加するとのこと。冬に長崎旅行を予定されている皆さん、ぜひ平戸市にも立ち寄って、今や珍しい絶品「鯨鍋」を味わってみてはいかがだろうか。

●information
長崎平戸くじらフェア
長崎県平戸市岩の上町1508-3