アクロニス・ジャパンは10月29日、都内で報道関係者向けの説明会を開催し、米Acronis社のCEO アレックス・ピンチェフ氏が今後の同社の事業戦略について説明を行った。

モバイルデバイス対応を事業の"第3の柱"に

米Acronis社CEO アレックス・ピンチェフ氏

同社はバックアップ&リカバリーソリューション事業を展開しているが、日本ではアクロニス・ジャパンを通じて個人・法人向けの各種ソリューションを提供している。10月23日には一般PCユーザー向けバックアップソフトウェアの新バージョン「True Image 2013 Plus by Acronis」のリリースを発表したばかりであり、最新技術を投入する同社の事業戦略に注目が集まった。

冒頭、ピンチェフ氏は現在のITを概観し「ビジネスを変えるドライバーに変革した」と表現。変化の激しい市場において企業に競争力をもたらす存在だとした。その上で現在のITのトレンドは仮想化、クラウドコンピューティング、エンタープライズのコンシューマー化であると指摘する。

エンタープライズのコンシューマー化とは、IT業界ではしばしば耳にする言葉ではあるものの、一般的には聞き慣れないかもしれない。これは、SNSという文化やモバイルデバイスが新世代の人材によって企業内に持ち込まれたことにより、従来とはまったく異なる仕事の仕方が生まれたことを指す。

ピンチェフ氏は同時に、「データに対する新たな要求も発生している」と指摘。新たな要求とは、データ保護やダウンタイムのゼロあるいは"ニアゼロ化"、急速なデータリカバリー、TCOの削減、複雑なIT環境の簡素化、といったものだ。またピンチェフ氏は、「ビジネスのグローバル化とデバイスのモバイル化に伴い、どこからでもデータにアクセスできるBYOD(Bring Your Own Device: 個人所有のスマートフォンやタブレット端末の業務利用)が胎動しつつある」とも付け加えた。

今後の事業戦略の柱は、このような新たな要求に対応したバックアップ&リカバリーソリューションを、新たな技術で開発してユーザーに提供することにある。

「Acronisは常に拡張可能なテクノロジーを信条としており、戦略には3つの柱がある」とピンチェフ氏は言う。

第1の柱は「データの保護・バックアップを複数の環境にまたがって実行」である。これは、オンプレミス、クラウド、分散環境のすべてに対応する。第2の柱は「ストレージの最適化」。ストレージを最適化することにより、企業のITコストを低減する。そして第3の柱は「さまざまなデバイスに対応」すること。PCやiPhone/iPad、Android搭載デバイスといったデバイスの種類を問わず、それらがどこにあってもセキュアなアクセスの実現を目指す。

GroupLogicのモバイルソリューションを来年初頭に日本市場投入

この記者説明会でピンチェフ氏は、今後投入予定の新製品についても言及した。

まず、仮想マシン向けバックアップ&リカバリーソリューションの新バージョン「Acronis vmProtect 8」の投入が決定。名前からうかがい知れるように、これは仮想化プラットホームをリードする「VMware」に特化したものだ。、バーチャルマシンをクラウドなどいかなる場所に置いていてもバックアップし、変更された部分だけを復元するvmFlashback技術により、前バージョンに比べて100倍の速度でバックアップ&リカバリーを実現するという。

「Acronis vmProtect 8」には、このほかにもさまざまな特長があるが、11月6日、7日にヴイエムウェア主催の「vForum2012」でのプレビュー公開が予定されているという。

同じく11月には、データ保護と復旧・修復の統合プラットホームの新バージョン「Acronis Backup & Recovery 11.5」も正式発表される。

新バージョンはオンプレミス、クラウドの両方に対応し、物理環境から仮想環境、仮想環境から別の仮想環境への移行作業を自動化できる。

「多くの企業ではデータ保護と復旧・修復では別々のシステムを使っていると思われるが、これを導入すればその必要はない。したがって、データの復旧・修復をクラウドで強化することもでき、データ保護もファイル形式、環境を問わない。21世紀型のデータの保護、リカバリーが実現する」とピンチェフ氏は自信を示す。

統合型でデバイスを問わないソリューションの提供は、同社にとって他社との差別化要因になるが、こうしたソリューションが提供可能になったのは、同社が2012年9月に米GroupLogicを買収したことが大きい。GroupLogicはモバイル対応技術に強みを持ち、ファイルアクセスやファイル共有、同期用ソフトを提供してきた。モバイル化やBYODの進展を踏まえたソリューション提供において、重要なテクノロジーを有していたわけである。

そのGroupLogicのソリューションは、来年初頭をメドに日本市場に投入する予定。最初に投入されるのは「ExtremeZ-IP」「mobilEcho」「activEcho」の3つである。

「ExtremeZ-IP」は企業内で使われているMacでWindowsサーバの環境を使えるようにするもの。サーバにインストールするだけで、Active Directoryの統合や分散ファイルの統合などが可能になる。

「mobilEcho」は業界初とされるモバイルファイルマネジメントソリューション。iPhoneやiPadから企業内のサーバにあるファイルに、セキュアにアクセスすることを可能にする。ディレクトリに統合され、アクセス権などが集中管理されることから、ファイルは閲覧が許可されたものだけしか見ることができず、安全性が高い。

「activEcho」は同期のためのセキュアなソリューション。企業が許可したファイルのみを同期することが可能なほか、許可された相手との同期もできる。モバイルデバイスを紛失したときなどは、内部のデータをデータセンター側で自動的に消去する。

新製品のリリースが続く同社の動向は今後も注目しておきたい。

9月に買収したGroupLogicがAcronisのモバイルデバイス対応ソリューションのカギを握る