自閉症発症の関連分子が脳神経細胞シナプスを制御する仕組みを発見 - 東大

東京大学(東大)は、脳神経細胞シナプスの制御を行う新規メカニズムを発見したと発表した。

同成果は同大 大学院薬学系研究科の富田泰輔 准教授、鈴木邦道 大学院生、松木則夫 教授、福山透 教授、同大 大学院医学系研究科の岩坪威 教授、慶應義塾大学医学部の堀内圭輔 特別研究講師、京都大学 再生医科学研究所の瀬原淳子 教授、独キール大学のPaul Saftig 教授らによるもので、10月18日に米国科学雑誌「Neuron」に公開された。

神経活動を支える脳の神経細胞はシナプスによって互いにつながりあい、ネットワークを形成している。神経細胞のネットワークは記憶や学習、情動などの脳機能に重要な役割を果たし、シナプスはそのネットワークを形作る素子とも言える。これまでの各所の研究で神経活動に応じてシナプスの量や質が変化することが示されてきたが、その分子基盤には不明の点が多く残されている。

近年、シナプス後膜に存在し、シナプス前膜に存在するNeurexinと結合することにより、神経細胞シナプスを新たに形成することができる、「シナプス形成分子」ファミリーに属する分子として膜タンパク質「Neuroligin」が注目されており、特にNeuroligin 1は興奮性シナプスに存在し、シナプスの形成や維持に関わっていると考えられている。

Neuroligin 1は興奮性シナプスに存在し、Neurexin と協調してシナプスの形成や維持に関わる

実は自閉症スペクトラム障害患者において、Neuroligin 1の遺伝子増幅が発見されているほか、Neuroligin 1を過剰発現、あるいは逆にノックアウトしたマウスにおいて自閉症様行動が観察されている。自閉症スペクトラム障害の発症は中枢神経ネットワークの興奮と抑制のバランスが崩れていることが一因と考えられており、Neuroliginの量が自閉症発症との深い関連を有することが示唆されてきたが、Neuroligin 1の量がどのようなメカニズムで制御されるかは不明であった。

研究グループは、マウスおよびラット脳の生化学的分析によりNeuroliginの切断断片を見出したことを契機に、主に初代培養神経細胞を用いてNeuroliginの代謝の詳細な検討を行った。その結果、Neuroliginの細胞外ドメインがメタロプロテアーゼ活性により切断を受けて分泌されること、および残った膜貫通領域を含むC末端断片がさらにγセクレターゼ活性によって切断をうけ、細胞内ドメインが細胞質に放出されることを見出した。

特にNeuroligin 1細胞外ドメインの分泌に関わるプロテアーゼについては、各種遺伝子ノックアウトマウス由来の培養細胞や、特異的阻害剤を利用して詳細に検討を加えた結果、「ADAM10(A Disintegrin and metalloproteinase domain-containing protein 10)」と呼ばれる膜結合型プロテアーゼがその責任酵素であることを明らかにした。ADAM10ノックアウトマウスのシナプス後膜においてNeuroligin 1の分泌が低下していることが確認され、Neuroligin 1はADAM10とγセクレターゼによって切断を受けることが証明されたという。

次に、この切断の意義を調べるため、神経細胞に対して様々な刺激を加えたところ、NMDA型グルタミン酸受容体の刺激によりNeuroligin 1の切断が上昇することが明らかとなった。また、この切断は細胞の表面膜上で起こっていること、分泌型Neurexin投与によって増加すること、そしててんかんモデルマウスにおいてNeuroligin 1の切断が増加することなどから、シナプス膜に存在するNeuroligin 1が興奮性神経活動に応じて切断を受けるものと結論づけられたとする。

そこで、この切断の機能的意義の検討のため、切断を受けたあとの形に一致するNeuroligin 1断片や、突然変異を導入して切断を受けない形に変換したNeuroligin 1を神経細胞に発現させ、シナプス形成について検討を加えたところ、ADAM10とγセクレターゼによる切断は、シナプス形成に関わる細胞表面膜上のNeuroligin 1量の低下を介して、シナプス形成を負に制御(抑制)していることが明らかになったという。つまり、興奮性の刺激を受け取った神経細胞シナプスでは、これらのプロテアーゼによる切断を介してNeuroligin 1の量が低下し、神経細胞シナプス結合量を適正なレベルに調節している可能性が示唆されたとする。

グルタミン酸受容体を介したNeuroligin 1の代謝により、興奮性シナプス形成を抑制する

ADAM10、γセクレターゼは、アルツハイマー病の原因タンパク質であるアミロイドβの形成を制御するプロテアーゼでもあり、これらのプロテアーゼ群が正常なシナプス機能や様々な疾患に共通に関与していることは興味深い事実だと研究グループではコメントしているほか、Neuroligin 1の発現量の異常が自閉症の発症に繋がる可能性が示されていることから、これらのプロテアーゼ活性は自閉症スペクトラム障害における治療薬開発において重要な創薬標的となり得る可能性があるとしている。

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