九州大学(九大)は10月16日、損傷脊髄に移植された神経幹細胞を選択的に回収し網羅的な発現遺伝子の解析を行うことで、移植された細胞の機能は生着した環境によって大きく異なることを証明したと発表した。

成果は、九大大学院 医学研究院の岡田誠司准教授、同・熊丸浩仁医師らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、英国時間10月16日付けで英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

近年、iPS細胞や神経幹細胞などの幹細胞を応用した再生医療研究が注目されている。特に、これらの幹細胞から分化させた心筋細胞や神経細胞を、心筋梗塞、脊髄損傷、アルツハイマー病などの患者に移植して病態を改善させる細胞移植治療への期待が高まっているところだ。

しかし従来の解析法では、移植後に生着した細胞がどこに存在してどのような細胞に分化しているのかといった情報は得られるものの、どのような遺伝子をどの程度発現しているのかといった網羅的な定量解析は不可能だった。

そのため、生着環境が細胞機能に与える影響や、移植後の細胞腫瘍化のリスクなど、基本的な疑問が未解決のままであり、臨床応用へ大きな障害となっていたのである。

岡田准教授らは、「セルソーター」という装置を用いて脊髄に移植され生着した神経幹細胞を選択的に回収し、細胞中に発現している遺伝子を網羅的に解析することに成功した(画像1・2)。

その結果、脊髄に移植された神経幹細胞の機能は、試験管内で予測された結果とは大きく異なることが判明。また、正常な脊髄に移植された場合と損傷脊髄に移植された場合でも、細胞の分化や働きが大きく異なることが見出された。

特に、損傷した脊髄中では、細胞の全体的な遺伝子発現が抑制され、神経細胞への分化や外部刺激に対する反応性も著しく低下している一方で、生存に関する遺伝子発現は活性化されていることがわかったのである。

これは、過酷な環境では移植された細胞自身が反応性を落として身を守ろうとした結果であろうと考えられた。また、がん関連遺伝子に関しても移植された環境により発現の程度が異なることも判明した。

画像1。4つの状態の神経幹細胞を解析した。それぞれ移植前の状態、試験管内で分化させた状態、マウス正常脊髄に移植して分化させた後に回収した状態、損傷した脊髄へ移植して分化させた後に回収した状態の神経幹細胞

画像2。画像1のそれぞれの状態の神経幹細胞が発現している数千個の遺伝子の発現強度を色の強さで表した図。ある状態では強く発現している遺伝子群が、別の状態ではほとんど発現していない

今回の結果により、同じ病気でも損傷の程度や病期の違いが、移植された細胞の機能に大きく影響することが示唆された形だ。より安全で効果的な細胞移植治療の臨床応用に向けては、移植された部位での細胞機能を明らかにする研究が必須であると考えられると、研究グループは述べている。