東京大学は、シミュレーション技術の1つである粒子法を用いて、東日本大震災で発生した津波のそ上の大規模3次元シミュレーションを、同大情報基盤センターに設置されたスーパーコンピュータ「FX10」を用いて実施したことを発表した。

同成果は、同大大学院 工学系研究科 システム創成学専攻の室谷浩平特任研究員と同 越塚誠一 教授によるもので、津波の入力の境界条件には、東北大学の今井健太郎 助教ならびに越村俊一 教授、および国際航業の協力を、陸上の地形データには石巻市の協力をそれぞれ得て行われた。詳細は10月6日~9日にて開催された「日本機械学会 第25回計算力学講演会」にて発表された。

東日本大震災で発生した津波は、防波堤を超えて沿岸の陸上をそ上することで被害が拡大したことが知られている。そのため津波のそ上をシミュレーションできるようにすることは、津波被害を予測する上で必要不可欠な要素となるほか、津波の被害を低減する方法や避難の方法を検討するためにも重要となってくる。

高い計算精度を得るためには3次元シミュレーションが必須だが、津波のそ上シミュレーションの実現には、津波がそ上する実際の地形をモデル化する必要があり、その結果、複雑な地形を詳細に扱う必要があること、ならびに津波がそ上する広い地域を扱う必要があるため、大規模なシミュレーションを行う必要があった。

そこで研究チームは、実際の複雑な地形のモデル化に向けて、独自に開発した粒子法によるシミュレーション技術を用いて、複雑な地形を詳細に扱えるようにした。また、広範な地域をシミュレートするために、スパコン上で高速演算性能が発揮できるように粒子法の大規模並列計算技術を新たに開発、それをFX10に適用した。

以下の図1はシミュレーションに用いられた石巻市の地形の一部。東西4.0km、南北3.5kmを扱っており、津波は南端の水位を境界条件として与えられた。用いた粒子の直径は2mで、総粒子数は最大時には2100万に達したという。シミュレーションの実時間は25分(1500秒)で、FX10の48ノード(768コア)を使用した計算時間は27時間となったという。

図1 シミュレーションに用いた石巻市の一部の地形

以下の図2は1000秒、1100秒、1200秒のそれぞれの計算結果で、これにより津波が陸の奥までそ上し、高台のふもとまで達していることが見て取れる。また、河口に津波が集中し、上流まで津波がさかのぼっていく様子も再現されている。

図2 津波のそ上のシミュレーション結果

研究チームでは今回の結果を受けて、今後は家屋やビルを含めた地形の影響、および破壊された家屋や港に停泊している船舶が浮遊物として津波とともにそ上する影響についてもシミュレーションに取り入れていきたいとしているほか、津波によってそ上する水流は、地形によって集中あるいは分散するため、さらに広範囲な地形を同時に扱えるようシミュレーションの規模を大きくしていく予定だとしている。