日立製作所は9月24日、京都大学工学部 三浦清貴研究室と共同で、デジタルデータの半永久的保存を目指して、耐熱性・耐水性に優れている石英ガラス内部に、CD並みの容量のデータを記録・再生する技術を開発したと発表した。詳細は、2012年9月30日から東京で開催される光ストレージに関する国際シンポジウム「International Symposium on Optical Memory(ISOM2012)」にて発表される予定。

IT社会の進展に伴い、情報の記録媒体が紙からデジタルデータへと急速に移行する中、長期保存技術の確立が求められている。特に、半永久的な保存が求められる文化遺産や公文書に対しては、温度や湿度などによる記録データの経年劣化がなく、いつの時代にも記録データを読み出すことができるストレージ技術が必要となる。

日立は2009年に、デジタルデータの長期保存を目的に、耐熱性や耐水性に優れた石英ガラスに着目し、レーザー光で刻印したデジタルデータを、光断層撮像法で読み出す手法を考案し、石英ガラスがストレージとして有用であることを確認した。しかし、実用化に向けては、高速・高密度でデータを記録し簡便に再生できる技術の開発が課題となっていた。この課題を解決するため、多層記録技術および100ドット一括記録技術を開発し、高速・高密度な記録を可能にした。また、市販の光学顕微鏡を用いた再生技術を開発し、記録データの簡便な再生を実現した。

記録に使用するフェムト秒パルスレーザを用いた高速高密度記録技術では、石英ガラス内部に、フェムト秒パルスレーザを照射して屈折率の異なる微小領域(ドット)を形成する。このドットを"1"、ドットが生じない部分を"0"としてデジタルデータを記録する。今回、記録容量を増加させるために、レーザのパワーや形成するドットの間隔、深さ方向の間隔などを最適化した多層記録技術を開発し、高密度な記録が可能となった。また、記録速度を向上するために光の振幅や位相を2次元的に変調できる空間位相変調器を用いて、一度に100個のドットを記録する一括記録技術を開発した。

光学顕微鏡による再生技術では、市販の光学顕微鏡を用いて簡便にデジタルデータを再生する技術を開発した。通常は、光学顕微鏡で多層に記録された石英ガラスを撮影すると、他の層に記録されたドットの像がノイズとなって映りこみ、読み出したい層の画質が低下してしまう。そこで、4層に分けて記録したデータをそれぞれ正確に読み取るために、焦点距離を変えた2枚の画像を用いてコントラストを強調する技術を開発した。さらに、ドットの輪郭を信号処理により強調することで、4層すべてにおいて、読み出しエラーゼロに相当する信号対ノイズ比(SN比)15dBの再生を達成した。

これにより、4層記録を行ったところ、CDの記録密度35M/inch2を上回る40M/inch2を実現した。また、数億年以上の保存期間に相当する1000℃で2時間の加熱試験の後も劣化無くデータを再生できることを確認した。日立は今後、さらなる記録密度の向上により、実用化を目指した実証実験を進めていく方針。

石英ガラスの内部にCD並み容量のデジタルデータを記録・再生する技術による記録パターン(左)、光学顕微鏡で撮影したドット像(中央)、輪郭強調処理後のドット像(右)