長崎大学、東京大学、国立国際医療研究センターの3者は9月20日、「原発性胆汁性肝硬変」の患者1500名と健常者1200名のDNA検体を用いて「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」を行い、日本人原発性胆汁性肝硬変の発症に関わる2つの疾患感受性遺伝子の「TNFSF15」と「POU2AF1」を同定したと共同で発表した。

同定された両遺伝子は、Tリンパ球やBリンパ球などの免疫担当細胞の成熟や分化に重要な役割を果たしている遺伝子であり、これらの遺伝子の個人差(遺伝子多型)が日本人の原発性胆汁性肝硬変発症に関わっていることが明らかになった形である。

成果は、長崎大大学院 医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻 肝臓病学講座の中村稔教授を代表とする全国規模の肝疾患共同研究グループと、東大大学院 医学系研究科 人類遺伝学専攻分野の徳永勝士教授、同・川嶋実苗ら特任助教、国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センターの西田奈央上級研究員の研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、9月20日付けで米国学術誌「American Journal of Human Genetics」オンライン版に掲載された。

原発性胆汁性肝硬変とは、中高年女性に多い比較的まれな(患者総数は全国で約5~6万人と推定)原因不明の「胆汁うっ滞性肝疾患」であり、進行すると黄疸、肝不全となり肝移植以外に救命方法がない難病である(なお原発性とあるが、原子力発電所との関係はない)。

その原因としては自己免疫的機序により肝臓内の小型胆管が破壊されることが考えられているが、詳細については未だ不明であり、根治的治療法も開発されていない。

家族集積性や双生児の研究から同疾患の発症には強い遺伝的素因(疾患感受性遺伝子)が関与することが示唆されていたが、今回研究グループが用いたものと同様のGWASを用いて、2009年に欧米人ヨーロッパ系集団の原発性胆汁性肝硬変の疾患感受性遺伝子座が2か所同定されていた。

その後、現在までに欧米人の疾患感受性遺伝子が21か所同定されているが、これらの遺伝子多型が集団差を超えて同疾患発症に共通であるか否かは疾患の発症機構の解明だけではなく、人類の進化と疾患との関連の解明のための人類遺伝学上の重要課題だったのである。特に、日本人のような比較的遺伝的均質性の高い集団における疾患感受性遺伝子の同定は世界の注目するところであり、その解析が待たれていた。

研究グループは、国立病院機構肝ネットワーク研究班(参加31施設)、厚生労働省難治性疾患克服研究事業 "難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班(参加24施設)"に登録された原発性胆汁性肝硬変患者1500名と、健常者1200名のDNA検体を用いてGAWSを行い、今回の同定に至った次第だ。

今回、これらの免疫応答に関与する遺伝子多型が日本人の原発性胆汁性肝硬変の発症に関わっていることが明らかとなったが、これらの遺伝子はヨーロッパ系集団で報告された原発性胆汁性肝硬変の疾患感受性遺伝子とは異なっており、疾患感受性遺伝子には集団間の差があることも示されたのである。

しかし、これらの疾患感受性遺伝子の機能の比較検討により日本人(TNFSF15、POU2AF1)と欧米人(IL12A、IL12RB2、STAT4、SPIB)で同定された異なる疾患感受性遺伝子も、免疫応答においては同一のシグナル伝達系や同一のリンパ球の分化・成熟のパスウェイで作用していることが明らかとなり、集団間で疾患感受性遺伝子は異なっても、原発性胆汁性肝硬変の疾患発症経路は共通であることが示唆された。

また、TNFSF15はクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の疾患感受性遺伝子であることが欧米人や日本人ですでに報告されており、原発性胆汁性肝硬変発症と炎症性腸疾患の発症に共通した遺伝的素因が関与していることも明らかとなった。

今後は、これらの遺伝子産物を標的とした原発性胆汁性肝硬変の根治的治療法の開発を目指すと共に、解析対象者を増やすことにより、同疾患の治療反応性、進行や予後に関連した遺伝的素因の同定、さらには新たな日本人の疾患感受性遺伝子の同定を行うことで、原発性胆汁性肝硬変の発症・病態形成に関連した遺伝子構造の全貌を解明する必要があると、研究グループは述べている。