産業技術総合研究所(産総研)は9月18日、過酸化水素を利用した酸化技術により、半導体封止材用途に適したエポキシ樹脂原料を高効率に合成法できる技術を開発したと発表した。

今回開発されたエポキシ化合物(左)とその粉末から作成したIC封止材(右)

同成果は、同所 環境化学技術研究部門 精密有機反応制御第3グループ 今喜裕研究員、精密有機反応制御グループ 清水政男主任研究員、企画本部 佐藤一彦総括企画主幹らによるもの。昭和電工と共同で行われた。

半導体封止材は、様々なエレクトロニクス材料の表面を保護し、性能の劣化を防ぐため、現代産業に必須の機能性化学品の1つとなっている。近年、製造コストを削減するため、基板配線についてはこれまで使用されてきた金メッキワイヤから銅ワイヤへの変換が急ピッチで進んでいる。しかし、銅ワイヤは金メッキワイヤに比べて酸などで腐食しやすいという課題がある。従来の製造法では、塩素系化合物の混入が避けられず、塩素系化合物が封止材中に残存して銅ワイヤを腐食するため、これまでの封止材では基板の長期信頼性が十分ではなかった。このため、電子機器の長期信頼性向上を目指して、塩素系化合物の混入が少ない半導体封止材の開発が進められている。

これまで、産総研と昭和電工は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「有害化学物質リスク削減基盤技術開発プロジェクト/非フェノール系レジストの研究開発」において、過酸化水素を酸化剤に用い、塩素を使わない脂環式エポキシ化合物の製造法を開発。このプロジェクトで開発された長寿命レジストは長期間の絶縁信頼性を示しており、液晶の画像制御基板部品などの用途の製品として昭和電工から上市されている。

さらに、これまで産総研が蓄積してきた触媒技術をベースに、レジストに留まらず種々の電子材料に対応する有用な技術として、エポキシ化技術の開発を推進。その過程で封止材用途として適用可能なグリシジルエーテルのエポキシ化技術を共同開発することに成功した。特に今回、最適な触媒を開発することにより、エポキシ樹脂原料を高効率、高純度で製造することが可能となった。

封止材の原料であるエポキシ樹脂は、これまでエピクロロヒドリンによる高効率エポキシ化反応を用いて製造されてきた。しかし、エポキシ樹脂中への塩素系化合物の混入を避けられないため、銅配線が腐食し、絶縁樹脂中に銅が析出する原因となる。一方、過酸化水素を使用した酸化技術によるエポキシ化反応は副生成物が水だけなので、クリーンで塩素系化合物を使わないエポキシ樹脂の製造法として期待されている。しかし、過酸化水素の酸化力は弱いため、酸化力を高める効果的な触媒の開発が必須となっていた。

今回、半導体封止材用のエポキシ樹脂として、グリシジルエーテル系化合物の製造方法を開発。グリシジルエーテルはエポキシドと炭素-酸素-炭素からなる構造(エーテル結合)をもつ化合物で、加工性に加えて耐候性、耐熱性、絶縁特性に優れ、半導体封止材に最適なエポキシ樹脂とされている。しかし、脂環式エポキシ化合物に比べ、エポキシ化が難しく、触媒の精密な調整が必要となる。

新技術では、原料からアリルエーテルを合成し、過酸化水素による酸化反応によってエポキシ化し、グリシジルエーテルを製造する。この合成工程により、塩素系化合物をはじめとするハロゲンを使わずにグリシジルエーテルを製造できる。触媒には、タングステン錯体-リン系添加剤の組み合わせを基本に、アミン系添加剤を組み合わせたものを用いた。この触媒により、副生成物が水だけの環境低負荷なグリシジルエーテル製造法が実現した。

さらに、反応のスケールアップ、コストの削減、触媒量の低減を行うことで製造プロセスを現実的なものにし、工業的な製造規模においても実証を済ませているという。現在、サンプル評価をユーザーとともに行っているが、硬化後のエポキシ樹脂から塩素イオンがほとんど抽出されないのに加え、成型性にも問題はなく絶縁信頼性が向上した、といった高い評価が得られているという。

ハロゲンを使わないエポキシ樹脂の合成戦略

今後、触媒技術をさらに改良し、反応のスケールアップと製造工程における触媒量の低減を目指す。産総研では、開発した触媒技術の高度化を進め、封止材全般に適用できるよう、過酸化水素による酸化反応がより難しいとされる素材の触媒を開発していく。昭和電工では、さらに評価試験および製造プロセスの改良を進め、他の用途への展開と合わせ、2014年の実用化を目指すとコメントしている。