東京都医学総合研究所および東京都福祉保健局は、日々行う目的ある行為において、ヒトで大きく発達した脳の「前頭連合野」にある3つの領域が役割分担していることを解明したと発表した。

成果は、東京都医学総合研究所の山形朋子研究員、中山義久研究員、星英司副参事研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間9月12日付けで米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載された。

ヒトは目的を達成するために行為を選び取っている。例えば、暑い夏に自動販売機で冷たい飲みものを買うという場合(画像1)では、目的「冷たい飲みものを買う」に則って、実際の行為「自動販売機でCOOLのボタンを押す」を決め、実行するというわけだ。

こうした目的のある行為は、前頭連合野によって支えられていることが臨床症例などによって示唆されている。しかし、行動の目的「何のため」と、実際の行為「何をする」を切り分けることを試みた研究はほとんどなく、これらの神経メカニズムは謎に包まれていた。

画像1。目的ある行為の例

そこで研究グループは、目的と行為を切り分けるために、新しい認知行動課題をサル用に開発(画像2)。サルの前にタッチモニターを置き、最初に色のついた画像(緑の円や、赤のダイヤなど)を見せる。次に左右に並んだ2つのカードを見せ、1つを選んで押してもらう。ここで、例えば「緑の円」なら右のカードを、「赤いダイヤ」なら左のカードを押すと、サルはジュースがもらえる。

指示によって選ぶカードの左右を決めても、その後2枚のカードは画面上のいろいろな位置に出るので、実際にカードが見えるまではサルは到達するカードの場所は決められなかった。こうした工夫は、カードの左右を決めること(目的)と、実際にカードに手を伸ばして押すこと(行為)を切り分けることを可能としたのである。

画像2。認知行動課題

この課題を行っているサルの神経活動を調べた結果、前頭連合野の3つの領域(画像3)は各々、以下の特徴を持っていることが明らかとなった。(1)前頭前野の腹側部(黄色)は、画像の指示に基づいて行動の目的を決める。(2)前頭前野の背側部(桃色)は、行為が完遂するまで忘れずに目的を保持する。(3)高次運動野(緑色)は、目的から行為を選び取る。

このように、今回の研究は「目的を決め、それに則って行為を選び取り、実行する」という日々の行動の基本的な枠組みの中で、前頭連合野の3つの領域の役割分担を、明確に定義づけることに成功した。

画像3。ヒトの前頭連合野(前頭前野と高次運動野)

前頭連合野で見出された役割分担の仕組みを、さまざまな認知行動課題を用いてより詳しく調べること、ならびに「大脳基底核」をはじめとするほかの脳部位とのやり取りへと研究を発展させることによって、ヒトで高度に発達した高次脳機能の神経基盤をより深く理解できるようになると、研究グループは語る。

さらに、前頭連合野を中心とする脳領域の機能失調によって誘発される高次脳機能障害などのさまざまな病態を、今回見出された役割分担の視点からも理解できるようにもなるという。こうした理解は、高次脳機能障害の病態解明やリハビリテーションプログラムの開発につながることが期待されるとしている。