防衛医科大学校、早稲田大学(早大)、慶應義塾大学(慶応大)は9月4日、出血部位で血栓を効率よく作り止血効果をもたらすナノ粒子、いわば「血小板代替物」を開発し、これが「外傷性大量出血」時の止血に効果があることを報告したと発表した。

成果は、防衛医大 免疫微生物学講座の木下学准教授、早大大学院 先進理工学部 生命医学科 生体分子集合科学研究室の武岡真司 教授、慶応大医学部の半田誠教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間8月27日付けで国際血栓止血学会誌「Journal of Thrombosis and Haemostasis 」電子版に掲載され、10月には印刷板にも掲載される予定だ。

首都直下地震や東海地震では、建物倒壊や事故などによる外傷患者が多発し、中でも大けがにより大量出血を来たしたヒトには迅速な輸血が必要となる。また、バイクの交通事故などは身体がむき出しのため、大けがにつながることが多い。

しかし、そうした場合に通常の赤血球輸血では血小板が入っていないため出血を止めらない。止血には血小板輸血が必要だが、輸血用血小板は保存期限が1週間程度と短いのが難点だ。そうした理由から、通常時でもストックが十二分とはいえず、大きな交通事故が重なったりすると、ストックが不足してしまうことがある。よって、大震災ともなれば、輸血用血小板の極端な不足が懸念されるというわけだ。

そこで、オールジャパン体制で血小板代替物の研究が進められてきており、今回の血小板代替物ナノ粒子の開発に至った。血小板代替えナノ粒子は、生体由来の材料をまったく用いずに作製できることが大きな特長だ。そのため、血液型を合わせる必要もないし、エイズや肝炎などの血液感染症の危険もない。

また、本来の血小板のように振とうしながら厳重な温度管理(20~24℃)をして保存する必要もなく、ただ静置するだけで血小板のほぼ25倍の6カ月間の保存が可能だ。さらに、大量生産も可能とまさにメリットだらけという具合である。

デメリットとしては出血部位以外での血栓が心配されるが、これまでの研究ではそれらができてしまうことはまったくなく、現時点では血栓症の副作用は認められないという。あくまでも、出血部位に特有のそこに付着した天然の血小板があって働く仕組みなのだ(画像)。

出血部位での血小板代替えナノ粒子による血栓形成の模式図

実際にウサギを用いた実証実験として、大量出血させた後に大量の赤血球輸血を行い、血小板が減少した状態のウサギの肝臓を傷付けるというものが行われた。すると、ほとんどのウサギが出血死してしまったが、同じ条件で血小板代替物ナノ粒子を投与したところ、血小板輸血と同様にすべてのウサギにおいて止血救命に成功したのである。

なお、木下准教授に話を伺ったところ、命に関わるような大けがをする危険性が考えられるような状況で、あらかじめ体内に入れておくという使い方もあるという。例えば、テロリストが人質を取って立てこもったりするような場合、突入を行う警察官たちに事前投与しておくという具合だ。

現在開発されている血小板代替えナノ粒子は「事後投与して止血をしたら、すぐに分解(代謝)されてなくなる」という形でドラッグデザインされているため(体内に長く滞留することで何らかの問題を引き起こす可能性をなくすため)、体内に入れた場合はおおよそ1日でなくなるそうだが、デザイン次第では1週間ぐらい持たせることも可能だという。

また、ヒトでの使用については、ウサギの実験で非常にうまくいっているため、次は霊長類で試験を行って安全性を確かめて、早い段階でヒトでの試験に移りたいとしている。木下准教授は、個人的な将来像として、早く実用化して、全国の血液センターなどにストックできるようにしたいと語ってくれた。

現状で心配されているのはやはり血栓症が起きないかというところで、特にその部分に注力して検査しているということである(止血そのものの検証の倍の時間や労力をかけているそうである)。ただし、前述したように今のところはまったく確認されておらず、出血部位でしか働かないという。よって、ヒトでの試験、そして実用化もそう遠くはなさそうである。