立命館大学は、多様な単細胞真核生物(プロティスト)が、「クロロフィルの光毒性を無くすための代謝メカニズム」を共有していることを発見したと発表した。

同成果は、立命館グローバル・イノベーション研究機構の柏山祐一郎 博士研究員と薬学部の民秋均 教授の研究グループ(立命館大学大学院生命科学研究科生物有機化学研究室)、筑波大学 生命環境系の横山亜紀子 助教の研究グループ(筑波大学大学院生命環境科学研究科植物系統分類学研究室の井上勲 教授と石田健一郎 教授)、京都大学大学院人間・環境科学研究科の宮下英明 教授、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの石川可奈子 主任研究員、三重大学大学院生物資源学研究科の石川輝 准教授、海洋研究開発機構の菅寿美 技術主事、筑波大学物質工学系の小林正美 准教授の研究グループ、および数理物質系・化学域の野本信也 教授らによるもので、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)オンライン電子版に、「Feature Article(特別論文)」として掲載された。

葉緑素との呼ばれるクロロフィルは、植物や藻類が太陽のエネルギーを捉えて、二酸化炭素から有機物を生み出す「光合成」の仕組みにおいて、必須の有機分子だ。人類を含むほとんどすべての生物は、究極的にはこの光合成を通した太陽のエネルギーに依存していることから、クロロフィルは地球生命圏を支える分子だといえる。しかし、クロロフィルには、光合成生物の中で精密に制御されている場合を除けば、光を受けて「一重項酸素」と呼ばれる生物にとっては猛毒である活性酸素を生み出す「光毒性」と呼ばれる負の側面がある。

人間は、普段の生活でこのクロロフィルの光毒性を意識することはないものの、海洋や湖沼で微細な藻類を食べて生きる微生物では、光が透過する細胞内でクロロフィルが含まれる餌を消化することで、活性酸素によって細胞を破壊されかねない重大な問題を抱えていた。そこで研究グループでは今回、藻類を食べて暮らしている「プロティスト」と呼ばれる生きものたち(単細胞の真核生物:原生生物)が、どのようにクロロフィルの光毒性を無くしているかについての解明を行った。

この結果、プロティストたちは藻類を食べる際に、クロロフィルを光毒性のない物質(シクロエノール)に変化させていることが判明。また、このような仕組みが、現在の海洋や湖沼で繁栄を遂げている、非常に多様なプロティストたちの間で、幅広く共有されていることも明らかとなった。

この無毒化されたクロロフィルとも言えるシクロエノールは、光と酸素の存在するあらゆる天然の水環境の中に存在しており、研究グループが普段の研究フィールドとしていた琵琶湖や東京湾、太平洋沖の表層水、大学の池、自宅の庭の水たまりなど、至るところでシクロエノールの足跡を見いだすことができたという。

今回の発見は、海洋や湖沼などにおける「生き物同士の繋がり(食物連鎖、食物網)」を考える上で、プロティストの活動という重要な視点を明らかにしたものだ。例えば、現在の地球では、光合成の約半分は海洋の微細な藻類によるものだが、藻類が生み出した有機物が、どのようなプロセスを経て海底に沈降していくか、つまり大気中の二酸化炭素がどのように除去されていくか、については、いまだ多くの謎が存在しており、今回の成果は、プロティストが海洋や湖沼で大きな役割を果たしていることを示すものであると研究グループでは指摘する。

こうした知見は、人為的な環境変動(地球温暖化や環境汚染)に対して、海洋や湖沼の生態系がどのように変化するか、全体としてどのような影響が現れるか、を理解する上で重要なものとなるという。例えばシクロエノールを微生物の活動をモニターする指標として利用することで、従来は研究が困難であった微生物活動のダイナミックな変化を捉えることができるようになることが期待されるためだ。

また、現在地球上でみられる生態系の多様性が、どのような進化の道筋の上に成り立ってきたかを理解する上でも重要な発見だと研究グループでは指摘しており、プロティストは研究が困難な微生物のグループのため、その多様性、生態、進化などの研究がまだまだ必要だが、今回の研究は将来の同分野の研究や発展に関しても新しい足がかりをもたらすもので、化学、生物学、地球科学などの広範な学術分野におけるブレークスルーをもたらす事が期待されるとコメントしている。

海洋や湖沼の食物網(食べる-食べられるの関係)の概念図。今回の研究によりシクロエノール代謝を備えたプロティストによる微細藻類の捕食活動(プロティストによる植物食)が、海洋や湖沼の食物網において重大な寄与を持つことが示された