パナソニック エコソリューションズ社は、「知的生産性」を維持しながら省エネを実現することを目的とし、光による覚醒度や「サーカディアンリズム(概日時計)」への影響に配慮して明るさや光の色を時間帯によって変化させる「調光・調色照明制御手法」を考案し、同手法による実験の結果、知的生産性およびサーカディアンリズムへの影響が従来の照明と変わらないことを証明したと発表した。

東日本大震災以降、節電対策として照明を減灯するオフィスが増加している。オフィスにおけるJISの推奨照度は750lxとされており、減灯によって照度が不足し、暗く陰鬱な空間になっているオフィスも見受けられるような状況だ。

一般的に、照度が下がると覚醒度が低下すると考えられており、知的生産性への影響が危惧されている。そのため、知的生産性の観点から照度が不足する状態が継続することは好ましくないと考えられることから同社は、知的生産性を維持しながら省エネを実現することを目的とし、光による覚醒度やサーカディアンリズムへの影響に配慮した、調光・調色照明制御手法を考案。九州大学大学院の安河内朗教授と共同で、日中の覚醒度やパフォーマンス(作業効率)およびサーカディアンリズムへの影響を調べるための検証実験を行った。

実験は九大実験室にて、健康な男子学生10名を対象に、日中に「従来照明(750lx)」「節電照明(400lx)」「調光・調色照明」の3つの試験条件で実施(画像1)。

日中は、脳波による覚醒度評価、および選択反応課題によるパフォーマンステストが実施された。夜間には睡眠の質と関連が深いとされる「深部体温」とホルモンの1種である「メラトニン」の分泌量(濃度)が測定された。

評価条件は、1日目の朝9時より3日目の朝7時まで実験室内にて過ごすというもの。1・2日目の朝9時より夕方6時までは画像1の照明条件のいずれかの下で被験者たちは過ごした。それ以外の時間帯の照明はすべて同一条件にて実施している。

画像1 実験の3種類の証明と、その照度と時間

実験の結果、節電照明では日中の覚醒度とパフォーマンスが低下(エラーが増加)し、夜間の体温も十分低下しなかった一方、調光・調色照明では日中の従来照明と同等の覚醒度、パフォーマンスが維持され、かつ夜間の体温の低下量とメラトニンの分泌量が最も多いことがわかった(画像2~6)。

画像2(左)が覚醒度評価で、画像3(右)がパフォーマンス(エラー回数)テストの実験結果。節電照明では覚醒度とパフォーマンスが低下し、調光・調色照明では、従来照明と同等を維持。なおCNVは選択反応課題時に生じる特殊な脳波で覚醒度などの指標として用いられている

画像4(左)は夜間の深部体温の推移を、画像5(右)は就寝時からの体温低下量を表したグラフ。節電照明では就寝中の体温低下が小さく、調光・調色照明では夜から早朝にかけてもっとも低下する

画像6 夜間のメラトニン分泌量。「調光・調色 照明」が最大で、従来照明よりもメラトニンの分泌量が多い

覚醒度とパフォーマンスの維持は、知的生産性にとって重要だ。また、日中の覚醒度の維持と夜間の体温低下やメラトニンの分泌は、「健全なサーカディアンリズム」の維持にとって大切と考えられる。これらの結果から、過度な節電照明では日中の知的生産性やサーカディアンリズムへの影響が危惧されるが、適切に明るさと光の色を制御して省エネする照明制御手法は、知的生産性と健全なサーカディアンリズムの維持が可能であることが確認された(画像7)。

画像7 3種類の照明の評価。調光・調色照明は従来照明よりも深部体温やメラトニンの分泌に関してはよい結果が出ており、節電とサーカディアンリズムへの影響の2つのプラス効果があることが確認された

なお、今回の検証結果については、「日中の照度色温度可変照明制御がパフォーマンスおよびサーカディアンリズムに及ぼす影響」として、山口大学吉田キャンパスで開催される「平成24年度照明学会全国大会」において、2012年9月8日に安河内教授が発表を行う予定だ。