立命館大、しゃがみ姿勢から立つだけで「筋力余裕度」を測れる測定器を開発

立命館大学は、日常生活に最低限必要な筋力に対して、体力が低下したお年寄りからアスリートまで、どれほど筋力の余裕があるのかを誰でも簡単に測定できる「筋力余裕度計」を開発したと発表した。

成果は、立命館大 スポーツ健康科学部の吉岡伸輔助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、学術誌「Journal of Robotics and Mechatronics」に掲載される予定だ。

ヒトの筋力は加齢と共に低下するのは、説明するまでもなく誰もが知っていることだろう。そして筋力が低下することによってヒトには何が起きるかというと、移動能力の低下が大きい。さらに筋力低下が進めば、最終的には要介護状態を招くなど、生活の質の低下を招いてしまう。

高齢社会を迎えた日本において、このような問題は各家庭において身近なものとなっており、行政や介護施設だけではなく高齢者が暮らす家庭においても問題解決に向けた取り組みが求められている。つまり、高齢者が活き活きとした生活を生涯送り続けるためには、自身の筋力状態を日々チェックし、筋力が低下しないよう定期的に筋力トレーニングを行うことが望ましいことの1つというわけだ。

しかし、これまでのところ個人で購入可能なトレーニング器具や、家庭で実践できる筋力トレーニング法は数多く存在するが、肝心の筋力測定器は、家庭で容易に利用できるようなコンパクトかつ高精度なものが存在していないという問題があった。

各種のトレーニングを成功に導く上で、現状の筋力水準の把握や定期的なトレーニング効果の確認は欠かせないが、「腕が太くなった」「(腕立て伏せなどの)トレーニングのこなせる回数が増えた」といった、大まかなところで実感するしかないのが現状である。

そこで吉岡助教らは、これまでの研究知見を応用し、家庭で簡便かつ高精度に筋力測定できる機器(の試作機)を開発し、特許出願したというわけだ。椅子からの立ち上がり動作に必要な筋力を力学的な理論を基に数値化し、各個人の筋力が日常生活に最低限必要な筋力に対してどの程度余裕があるのかを表す「筋力余裕度」というコンセプトに基づいた測定機器である(画像1・2)。

画像1。測定器(試作機)

画像2。筋力余裕度計(試作機)の概略図

この測定器では、可能な限りしゃがみ込んだ姿勢から全速力で立ち上がった際にヒザと股関節で生み出されるトルク(関節を曲げ伸ばしするための力)を測定。測定後、その値を日常生活に必要とされる最小筋力値との比率(筋力余裕度)に変換して出力するというものだ。

測定には、上半身と大腿部に取り付けた加速度センサとジャイロセンサ(物体の回転速度を計測するためのセンサ)を用いる(画像3・4)。しゃがみこめる度合いは各個人によって異なるが、その人にとって最大であれば、浅くても筋力測定に問題はない。体力が大きく低下した高齢者の場合、あまりしゃがみ込めない場合もあるが、そのような場合であっても筋力は測定可能である。

画像3。太ももと下胸に測定器を着け筋力余裕度を計測する吉岡助教

画像4。測定の概略

家庭で実施できる筋力測定法の代表的なものとして、椅子を用いた座り立ちテストがある。椅子と時計があればどこでも筋力を測定できることが特徴だが、以下のような、(1)手を使わずに椅子から立ち上がれない人は測定できない、(2)測定に体力が必要(20~30秒間、全速力で座り立ち動作を繰り返す必要がある)、(3)測定結果の精度が粗い(分解能が低い)という問題点があり、普及するには至っていない。

今回の手法では、椅子からの立ち上がり動作に関わる力学的な理論に基づく研究知見及び近年発展めざましい「MEMSセンサ」を利用することにより、一度立ち上がるだけで筋力を測定できるようになったことが大きなメリットである。

また、椅子座り立ちテストのようなある一定の高さからの立ち上がりではなく、各個人ができる範囲の中で最もしゃがみ込んだ姿勢からの立ち上がり動作で測定ができるようになっている点もポイント。そのため、手を使わないと椅子から立ち上がれないような体力低下の著しい高齢者から、よく鍛えられたアスリートまで幅広く測定できるようになった。

また、性能の点でも5~10倍程度分解能を向上させることができており、利便性及び性能の両点で既存の手法を超えたものとなっている。さらに、従来示すことが困難であった、「各個人の筋力が日常生活に最低限必要な筋力に対してどの程度余裕があるのか?」という指標(筋力余裕度)についても示すことができるようになったことも実用面で大きい。

今回の技術の特徴をまとめると、重複する部分もあるが、以下の6点が挙げられる。

1つ目が、筋力余裕度を測定可能なこと。測定値を一般人でも簡単に理解できるよう、日常生活に必要とされる最小筋力値(100%)との比率(筋力余裕度)に変換して出力するようになっている。これは、従来の筋力測定手法にはない世界初の機能だという。例えば、結果が「200%」と得られた場合、その人の筋力は日常生活に必要な筋力の2倍であり、十分に余裕があることを意味する。

2つ目が、結果の信頼性が高いこと。筋力余裕度計による測定結果と、研究でトルク計測に用いられる高精度な測定器を用いた場合における測定結果の間の相関係数は0.99だった。つまり、筋力余裕度計は研究で用いられる機器と、事実上同じ結果が得られることを意味しており、結果の信頼性は高いものとなっている。

3つ目が、測定が簡単なこと。これまで説明してきたが、一度立ち上がるだけで筋力を測定できる仕組みなので、非常に計測の仕方が簡単だ。

4つ目が、さまざまな体力の人を測定可能なこと。こちらも前述したように、「各個人ができる範囲内で最もしゃがみ込んだ姿勢」から計測をスタートするので、体力低下の著しい高齢者から、よく鍛えられたアスリートまで幅広く測定できるというわけだ。

5つ目が、コストがかからないこと。測定に用いるセンサは身の回りの電子機器にも使用される汎用品のため低コストだ。

6つ目が、サイズがコンパクトであること。測定器全体として手のひらにのるほどの大きさであり、設置や収納の面でスペースを取らない。

画像5のグラフは、筋力余裕度計で測定した人の年齢と筋力の関係を記したものだ。60歳頃から急激に筋力が低下し始め、80歳代で日常生活に必要とされる最小筋力値の水準まで筋力が低下することが示されているのがわかる。

言い換えると、生活の質の低下や寝たきりの予防などには60歳以降における筋力の管理が重要となることが見て取れるはずだ。また、80歳以降では同年代の平均であっても筋力に余裕がなく、周りの同世代の人々と同じという状態で決して満足してはいけないことがわかる。

筋力余裕度計は分解能が高いため、筋力の低下をいち早く察知でき、さらにトレーニングの効果もしっかりと把握できるので、筋力低下の対策に適した機器といえよう。

理論と実際の測定による検証では、測定した筋力余裕度が130%を切ると、走ることや屈伸運動が苦しくなる。また100%を切ると、トイレへ行ったり、階段を上ったりといった自宅内での移動も辛くなることが確認済みだ。一方、230%を超える値は、アスリート(一流のスポーツ選手)などが当てはるという。

画像5。年齢と筋力の関係

なお筋力低下の予防には、筋力トレーニングだけでも、もちろん筋力測定だけでも不十分だ。トレーニング効果が確認できない場合はトレーニング内容を修正する必要がある。

そのため、筋力測定によりその効果を確認しながら推し進めることが大切だ。よって、吉岡助教らは、筋力余裕度計を併用して、効果的なトレーニングを実践してほしいとする。

トレーニングの具体例を挙げると、100%未満の人については、健康・体力づくり事業財団の「貯金運動プロジェクト」の座位プログラムや筋力トレーニング(初級編)がオススメだそうだ。100~130%の人については同プロジェクトの立位プログラムや筋力トレーニング(中級編)が勧められている。

また、特別に時間を設けてトレーニングするだけではなく、日常生活の中で階段を積極的に利用するようなことを加えることで、効果をより上げることが可能となるという。

ちなみに、今後、測定器を各家庭で購入できるよう1万円を切る実売価格で市販化することを予定しているとした。

吉岡助教らは、「筋力余裕度計」の市販化により、家庭にある体組成計と同じような感覚で、手軽に筋力を測定できるようになり、筋力状態に合わせた効果的なトレーニングにつなげることができるという。また、病院でのリハビリや、スポーツ分野などでの応用も期待されるともコメントしている。



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