Appleが以前より予告していたように、Mac App Storeに登録するアプリのサンドボックス化(Sandboxing)が必須となり2カ月が経過している。そうした中、Instapaperの開発者であるMarco Arment氏が自身のBlogでMac App Storeの将来について悲観的な見方を記し、話題を呼んでいる。

Mac App Storeでサンドボックス化が必須に

サンドボックス化とは、アプリの実行に際して「サンドボックス(砂場)」と呼ばれる閉じた実行環境を作り、障害が発生しても他のアプリや環境に影響を与えないようにするセキュリティモデルだ。詳細については海上忍氏のコラムなどを参照いただくといいだろう。iOSでは以前から導入されているモデルだが、何度かの適用延期ののち6月1日からMac App Store経由で配布されるOS Xアプリケーションについてもこのサンドボックス化が必須となった。

これまで比較的自由にシステム環境を利用できた既存のOS Xアプリケーションについて、もしAppleの決めたルールに則ってサンドボックス対応を行うと、これまで利用できていた機能をいくつか削除しなければならない、あるいは主体となる機能そのものがなくなってしまうため、Mac App Storeから撤退するという選択肢を取らなければならなくなるケースもある。これが同ストアへのサンドボックス化導入に際して開発者の間で話題になっていた話だ

ここまではLionにおける話だが、先日発売されたMountain Lionではさらに「Gatekeeper」と呼ばれるセキュリティマネージャ機能が新たに導入され、「アプリのインストールをMac App Store経由に限定する」といった設定が可能になるなど、サンドボックス化と合わせてさらにMacのセキュリティを強固にすることができるようになっている。

制限を嫌っての撤退を懸念

さて、今回の本題となるArment氏のブログエントリを見ていこう。同氏は「今後こうしたルールが強制されることでMac App Storeを撤退するデベロッパーが続き、利用者が減り始め、さらに市場としての魅力を失ったストアからデベロッパーの流出が続く悪循環に陥る可能性がある」ことを指摘している。エントリの冒頭で紹介しているのは、投稿の1日前にMac App Storeからの撤退を発表したPostboxの例だ。PostboxはMac用ではMail.appに代わる数少ない有用な電子メールアプリだが、ライバルだったSparrowがGoogle買収によってバージョンアップ中止を告げたことで、一躍主役へと踊り出た(同じGecko技術を用いているThunderbirdも積極的な機能更新は行わないことを発表している)。PostboxがMac App Store撤退の理由として挙げたのは「ストアの融通の利かなさ」で、最終的に決め手となったのは「Mac App Store登録のためにアプリの機能を削ってAppleのポリシーに従わなければならなかったこと」にあるという。今後Postboxは、すでに運用を開始している自社のアプリストアでの直販体制に切り替えるとのことだ。

Arment氏は今後もこうしたPostboxのような撤退例が増え続けることを危惧している。また同氏は当初、同じアプリがあった場合はメーカー直販よりもMac App Storeでの購入を優先し、例え直販より安くてもその再インストールや頒布の便利さを享受していたという。ところがサンドボックス化必須のルール制定後、これら購入済みのアプリ資産が将来的にも有効かどうかが不透明になりつつあり、いまでは「もしアプリ購入時に選択肢があるなら、おそらく今後Mac App Storeを選択することはないだろう」と考えるに至ったようだ。またAppleのベンダーロックインの姿勢や"あやふや"なポリシーがかえって開発者やユーザーの離反を招き、iCloudといった他の戦略にも影響を及ぼすのではないかとしている。

この投稿は大きな反響があったようで、すぐに同日別の投稿を行い、質問に対してのフォローアップを行っている。質問で最も多かったのは「Mac App Storeは一般ユーザーをターゲットにしたもので、あなたのようなギーク(Geek)を相手にしたものではない」といったもので、これに対しArment氏は「ギークを中心とした影響力はやがて周囲に広く波及する」とし、局地的なテーマではないという意見を述べている。

サンドボックス化必須のポリシーが6月1日にスタートしてから約2カ月、まだ影響は比較的軽微だとみられるが、今後1年ほどを通してどのように開発者やユーザーに波及していくのかについて、じっくり観察していきたいところだ。