京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の井上治久准教授らの研究グループは、全身の筋肉が萎縮し動かなくなる難病「筋萎縮性側硬化症(ALS)」の患者の細胞から作った人工多能性幹細胞(iPS細胞)を基に、治療薬の候補となる化合物を見つけ出すことに成功した。iPS細胞が特定疾患の病態モデルとなるもので、難病研究への応用がさらに進みそうだ。研究成果は米科学誌「Science Translational Medicine(サイエンス・トランスレーショナル・メディシン)」(オンライン版)に1日発表された。
井上准教授らは、50歳代の3人のALS患者の皮膚細胞からiPS細胞を作り、運動神経の細胞(運動ニューロン)に分化誘導した。健康な人から同じ方法で作成した運動ニューロンと比較したところ、信号を伝える神経突起の長さが正常の長さの半分と短く、「TDP-43」という特異的なタンパク質が凝集するなど、実際の患者の病理組織と同じ特徴が見られた。
TDP-43タンパク質が増えると、神経細胞の形成に関係する遺伝子の働きにも異常が生じる。そこで、これらの遺伝子の働きを補う作用が知られる4種類の化合物を運動ニューロンの培養液に加えたところ、そのうちの1つの化合物「アナカルジン酸」がTDP-43タンパク質の発現量を減らし、神経突起の長さを回復する効果があったという。
アナカルジン酸は、作り出した運動ニューロンに対する効果なので、そのままALSの薬剤になるとは限らない。アナカルジン酸と似た分子構造を持つ他の物質の方がより効果の高い可能性があり、安全性や体内での薬物の動態などの確認が必要となるためだが、今回の研究でiPS細胞から分化誘導された運動ニューロンは、ALSの治療薬シーズを探索する病態モデルとして有効であることが示され、新薬開発を大きく加速するものと期待される。
今回の研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業・チーム型研究(CREST)やJST山中iPS細胞特別プロジェクト、内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」、文部科学省科学研究費補助金、厚生労働研究費補助金、ノバルティス老化および老年医学研究基金の資金的支援を受けて実施された。
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