東京大学(東大)などの研究グループは、半導体基板上の厚みが数nm以下の薄膜(超薄膜)に閉じ込められた電子状態が3次元、2次元、1次元と制御できることを発表した。同成果は、同大物性研究所の松田巌 准教授および大学院生の小河愛実氏(大学院理学系研究科 博士課程3年)らによるもので、「Physical Review Letters」に掲載された。
金属薄膜は厚さを1nm程度にすると、いわゆる「量子閉じ込め効果」によって電子状態は3次元から2次元系へと転移する。3~6原子層に相当する1nmでは、薄膜内部(バルク)層に対する表面・界面単原子層の割合(表面/バルク比)は大きいため、その結果、表面・界面単原子層をうまく選ぶことで、超薄膜の電子物性を変えることが期待されている。
今回の研究では代表的な半導体であるシリコン(Si)結晶を基板として、導電性が高いAgの1nm厚の超薄膜を自己組織的に成長させ、最初に内在する電子系が2次元的であることが示された。実験は国内外の高輝度放射光実験施設において行われ、角度分解光電子分光法により直接的にその電子構造(フェルミ面)が確認された。
フェルミ面は波数空間において描かれたフェルミ準位における等エネルギー面であり、3次元系の自由電子はフェルミ球(sphere)を成している。量子閉じ込め効果が実現された1nm厚のAg超薄膜では、電子は量子井戸状態を形成して系は2次元系となり、光電子分光測定においてフェルミ円(circle)が確認されたという。
また、次にSi結晶基板上へのIn原子の蒸着と加熱処理を実施し、太さが原子4個分のIn原子鎖の列を約1nm周期で作製。その上に、Agの薄膜を自己組織的に同様に成長させたところ、膜内に1次元的相互作用が発生し、その結果、フェルミ線(line)が形成されることが光電子分光法で実証された。さらに、超薄膜内に形成された1次元電子状態と界面原子層の1次元電子状態が相互作用することで、系全体が安定化する新奇な低次元の薄膜物性も解析により発見された。
エレクトロニクス分野では電気伝導の異方性は重要であり、そのためには伝導を担うキャリア系の次元性を制御することが最も有効となる。従来の手法では薄膜の厚さを制御することで系を3次元から2次元へと変化させていたが、今回の研究により界面原子層も組み合わせることでさらに1次元へと転移(トポロジカル転移)できることが自己組織化金属ナノ薄膜において示されたこととなる。
なお、研究グループでは、今回の成果について、多機能および省エネデバイスにおけて電子素子の微細化は重要であり、今回見出した長さ1nmの微小空間における特有な電子状態の制御方法は、量子効果を利用した新しい"金属細工"法として今後のデバイス開発において新たな可能性を生み出すことになるはず、との期待を示している。
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