慶應義塾大学(慶応大)は7月23日、眼の周囲の電位(眼電位)で前進や右左折などのコントロールが可能で、さらに障害物の自動的な回避や交差点を認識する機能なども搭載した車いす型の自動走行装置を開発したことを発表した。

成果は、慶応大理工学部 システムデザイン工学科 眼電位信号処理部の満倉康恵准教授と同・安心安全車いす制御部の高橋正樹准教授らの合同研究グループによるものだ。

近年、体の不自由なヒトや高齢者を支援することを目的として、脳波や筋電位、眼電位などの生体信号からユーザの意図を抽出し、それらを用いて操作する車いすの研究開発が盛んに行われている。

しかし、生体信号を用いた従来の車いすでは、操作入力の精度向上、安全性・操作性の向上、長時間使用や生体信号計測器の装着によるストレスの軽減が課題となり、実用化に至っていない。

この問題点に対し、研究グループは眼の周りに装着した少数の電極から眼電位を計測して3種類のまばたきを高精度に検出し、車いすの方向入力として応用する手法を開発した形だ。

また、通路や曲がり角などの環境情報を検出し、環境に応じて走行速度や旋回角を自動調節する制御機構を組み合わせることで、より安心・安全かつ円滑に走向することが可能な車いすの開発に成功したというわけである。

なお、電極装着が容易かつユーザの負担が少ない眼電位を用いて方向入力を行うことができ、なおかつ制御機構により通路状況に適した自動走向も行うことが可能な機構を搭載した車いすの開発に成功したのは、世界初だという。

まばたきに起因する眼電位の特徴は顕著に現れ、またまばたき1回の時間は0.2~0.4秒と短いことから、高精度かつ高速に検出することが可能だ。しかし、まばたきはジョイスティックやハンドルのような連続的に操作(入力)することができないため、車いすの操作には不向きであるとこれまでは考えられていた。

そこで、通路や交差点の情報を考慮した自動走向ができる機構と組み合わせることで、まばたきによる入力を車いすの制御へ応用することができるようになったというわけである。

具体的な方向入力は、画像1に示す6カ所に装着した電極から取得した眼電位を解析し、意図的なまばたきを検出することで実現する仕組みだ。意図的なまばたきとしては、両目で瞬時に2度まばたきを行う「ダブルブリンク」、片目で行う左右のウィンクを用いて、ヒトが日常的に行う無意識的なまばたきとは区別するようになっている。

画像2の状態遷移図に示すように、前進したい時はダブルブリンクを行い、右左折したい時は右または左ウィンクを行う。この時、左右の壁との距離、前方の交差点の有無、障害物の有無を車いすに搭載したセンサにより自動検出し、適切な走行速度や旋回角を計算することで安全な半自動走行を実現するというわけだ。

なお、画像3はシミュレータにおける右折時の車いすの軌跡で、画像4が今回の車いすの右折の実機動作結果の様子。なお、通常のまばたきとダブルブリンク、右および左ウィンクの検出精度は97.28%だ。

画像1。電極を装着した実際に様子と、顔面の眼電位計測ヶ所の模式図

画像2。入力コマンドと状態遷移図

画像3。シミュレータにおける移動軌跡

画像4。実機による右折の動作の様子

今後は、眼電位計測機器や解析装置の小型化・低価格化に加え、より多くの環境に適応できる制御機構を導入することで、本車いすの実用化を目指したいと、研究グループはコメントしている。