日本科学未来館(未来館)は、7月7日(土)から10月15日(月)までの予定で、企画展「「科学で体験するマンガ展」~時を超える夢のヒーロー~」を開催することを発表した(画像1)。

会場は、同館1回の企画展示ゾーンaおよびb。入場料は常設展示込みの場合は大人1300円、18歳以下700円、企画展のみの場合は大人1000円、18歳以下600円となっている。

画像1。企画展「「科学で体験するマンガ展」~時を超える夢のヒーロー~」のポスター。(c)石森章太郎プロ、(c)手塚プロ、(c)フジオプロ、(c)藤子スタジオ、(c)藤子プロ

今回の展示は、戦後から高度成長期に至るまで、多くの子どもたちに大きな夢を与えてきた、とりわけ1960年代から70年代に描かれた(もしくは現在も新作アニメなどがリリースされている)日本のマンガ作品の主人公たちにクローズアップ。

その時代の作品の中でも、今回はヒーロー・ヒロインが大活躍するマンガがピックアップされた。「怪物くん(藤子不二雄A)」「サイボーグ009(石ノ森章太郎)」「鉄腕アトム(手塚治虫)」「ドラえもん(藤子・F・不二雄)」「ひみつのアッコちゃん(赤塚不二夫)」の5作品が一堂に会することになる(トキワ荘の住人だったマンガ家たちの作品が集まるのだ)

彼らの作品は当時の少年少女たちの想像力をかき立て、作品に描かれた夢の世界を実現しようという原動力へと変わり、今の日本を創り上げてきたといってもいいほどの影響力を与えたのは間違いなく、実はマンガイベントとしても凄い企画展なのだ。

例えばドラえもんや鉄腕アトムなどは、人とコミュニケーションできるヒューマノイドロボットとして描かれているわけだが、それらを作りたいというロボットの研究者やクリエイターは多い。サイボーグ009はサイボーグというSF用語を一般的な言葉にした作品といえるし、怪物くんの変身能力や手足を伸び縮みさせる能力がほしかった人も、ひみつのアッコちゃんの変身能力に憧れた人も多かったはずだ。

今回の企画展では、そうした人々に感動と希望を与えてきた偉大な作品のヒーロー・ヒロインの能力や作品世界を、最先端の科学技術で再現していく。臨場感あふれる体験型の展示で、未来を描く力、マンガ文化のすばらしさ、科学技術とその可能性を伝えていくという。

展示構成は、以下の通り。

  • 怪物くん:「怪物くんの伸びる手!」「怪物くんの変身!」
  • サイボーグ009:「004!敵を発見し、倒せ!」「009!最高幹部をつきとめよ!」
  • 鉄腕アトム:「鉄腕アトム誕生」「アトムと一緒に空をこえよう!」
  • ドラえもん:「コエカタマリン!」「らくがきじゅう!」
  • ひみつのアッコちゃん:「アッコちゃんの世界へようこそ!」「魔法の鏡で変身!」

ちなみに「怪物くん」がどんな作品だったかというと、近年、テレビドラマ化・映画化されたのでご存じの人も多いかとは思うが、藤子不二雄A氏の作品。怪物ランドの王子様の怪物くんがドラキュラ、狼男、フランケンシュタインのお供3人組を連れて人間界に修行に来るのだが、そこで活躍したり騒動を起こしたりする話だ。

「怪物くんの伸びる手」(画像2)は、その怪物くんの代名詞的な能力の1つであるによ~んと伸びる手を再現。入場者の手が伸びる感覚を味わえ、地球侵略を企むベラボー怪星人のUFOをその伸びた手で捕まえるというもの。画像データから特定の物体や形状を検出する画像処理技術を用い、自由自在に伸びる腕を操れるのだ。

「怪物くんの変身!」は、もっと格好良くなりたいといった誰もが持っている変身願望を、顔画像認識技術で実現したもの。怪物くんのやはり代名詞的な能力で、両手を顔の前で縦に振ると誰にでもなれるという変身能力があるが、このコーナーではそれを再現している。実際に手を顔の前で動かすと、自分の顔が色々なキャラクターに変身するのを体験できるのだ。

画像2。今の子どもたちにも人気のある藤子不二雄A氏の代表作の1つ「怪物くん」。怪物ランドの王子様の怪物くんの代表的な能力の1つを体験できてしまう「怪物くんの伸びる手」コーナーのイメージだ。(c) 藤子スタジオ

「サイボーグ009」は、石ノ森章太郎氏原作のヒューマンドラマ性の高いSFアクション。死の商人「ブラックゴースト」によって無理矢理改造されてしまった島村ジョー(009)たち9人のゼロゼロナンバーズのサイボーグ戦士たちが、組織を裏切ってその野望を打ち砕くべく戦うというストーリー(作品として長いため、神や伝説などを題材にしたり、宇宙を舞台にした話もある)。

「004! 敵を発見し、倒せ!」は、全身武器の塊という004ことアルベルト・ハインリヒを主役にしたコーナー。高速な眼球運動「サッカード」を利用して、空間に画像を表示するサッカードディスプレイと、超指向性のパラメトリックスピーカーで、サイボーグたちが高速で移動しながら戦うシーンを再現。

「009! 最高幹部をつきとめよ!」(画像3)は、高速に開閉するシャッターを通して見ることで、速すぎて見えにくいものも見やすくする技術「ストップモーションゴーグル」で、肉眼では見えない最高幹部の正体を暴くという内容。ゾーンを通じて人間の視覚認知や聴覚認知の仕組みに触れるコーナーとなっている。

画像3。「「009! 最高幹部をつきとめよ!」のイメージ。009の代名詞といえば「加速装置」による音速移動だが、同じく速すぎて人の眼では認識できない最高幹部の正体をストップモーションゴーグルで暴く内容だ。(c) 石森章太郎プロ

「鉄腕アトム」は手塚治虫氏の代表作の1つで、こちらも非常に有名。前述したように、日本のロボット研究者やクリエイターの中には、「アトムを作りたい」ということでその道に進んだ人も多いほどの影響力を持つ。劇中では、天馬博士が交通事故死した実子を模して開発したのがアトムで、人に等しい心を持っており、そんなアトムが人のために活躍するというストーリーだ。

「鉄腕アトム誕生」(画像4)は、CGを立体物に投影、質感や動きをダイナミックに変化させる技術「プロジェクションマッピング」(画像5)を用い、等身大の映像でアトムの内部メカニズムを解説。声をかけるとアトムが眼を覚ます、という天馬博士がアトムを誕生させた瞬間に立ち会えるのだ。

「アトムと一緒に空をこえよう!」は、誰もが一度は夢見た空中飛行を、大画面に表示された3D衛星画像マップを使って実現。アトムと一緒に現代の街を探検できるという内容だ。

画像4。「鉄腕アトム」の物語部分を題材にした「鉄腕アトム誕生」のイメージ。プロジェクションマッピングを利用して、CGが立体物に投影されており、そこにアトムが存在するかのような雰囲気を味わえる。(c) 手塚プロ

画像5。プロジェクションマッピングは、映像と合うよう緻密に計算された形状の立体物上にCGを投影することで、映像の動きや変化から、まるで対象物が動いたり、変形したりするように見える最新の映像技術だ。(c) IMAGICAイメージワークス

「ドラえもん」は最早説明不要だろう。藤子・F・不二雄氏の代表作で、日本はおろか海外でも人気の非常に高い作品である。「コエカタマリン!」は、そんなどらえもんのひみつ道具の中ではややマイナーだが、自分の声が物理的な塊となって飛び出すという、インパクトの大きいものを題材にしている。今回は音声認識技術によって、自分の声が画面上で文字となってキャラクターを驚かせるという内容である。

「らくがきじゅう!」(画像6)もややマイナーなひみつ道具だが、ターゲットの顔などに好きなように落書きできるという、イタズラ好きにはたまらないらくがき銃を題材にしている。展示はこちらもゲーム感覚で楽しめ、センサによって位置情報を測定し、狙ったキャラクターに落書きできるという仕組みだ。

画像6。ドラえもんのひみつ道具としては少々マイナーだが、登場人物たちを落書きしてしまえるというイタズラ要素の強いらくがき銃が題材の「らくがきじゅう!」のイメージ。のび太に成り代わって、ジャイアンやスネ夫らに報復すべし。(c) 藤子プロ

「ひみつのアッコちゃん」は、「天才バカボン」などのナンセンスギャグマンガで知られる赤塚不二夫氏が手がけた少女マンガ。主人公の小学生の少女アッコちゃんが、魔法のコンパクトに向かって「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、○○にな~れ!」という呪文を唱え、さまざまな姿に変身して活躍する内容だ。いってみれば、今の「プリキュア」シリーズの大先輩的な初期の魔法少女ものの1つである。

「アッコちゃんの世界へようこそ!」は、そのアッコちゃんの部屋を再現。鏡台の前に座ると、さまざまなアッコちゃんのエピソードをダイジェストで鑑賞できる。アッコちゃん世代にとっては懐かしく、アッコちゃんを知らない世代にとっては作品世界を楽しめるコーナーというわけだ

「魔法の鏡で変身!」(画像7)は、アッコちゃんの代名詞である変身を体験できるコーナー。当時の女の子たちが熱中した変身を、最新テクノロジーで実際に体験可能だ。鏡の前で呪文を唱えると、顔画像認識技術によりなりたい姿に変身できるのである。

画像7。魔法の力で、さまざまな姿に変身できるところが、当時の女の子たちの琴線に触れたわけだが、「魔法の鏡で変身!」はそれを再現した。いってみれば、バーチャル・コスプレ装置という趣。今も昔も女の子は変身が好きなのだ

作品によっては、21世紀に入ってからは新作やリメイクのアニメやテレビドラマなどが作られていなかったりするので、世代によっては知らないという作品もあるかも知れない。でも、そこは日本科学未来館、ちゃんとフォローがあるので心配ご無用だ。

大型スクリーンを利用した巨大マンガ(画像8)を投影するコーナーなど、読んだことがある人もない人も、世代を超えてその作品を楽しめる仕組みも用意されている。

もちろん、それだけで今回の作品のすべてを伝えるのは難しいので、例えばお子さんに教えてと頼まれた時は、お父さんお母さん(もしかしたらお祖父ちゃんお祖母ちゃん)が、その作品の面白さを語ってあげればいいのだ。

画像8。今の子どもたちだと、作品名は知っていても、実際にそのマンガを読んだことはないという子の方がほとんどだろう。なので、一部ではあっても会場で作品に触れられるのはいい機会だ。(c) 手塚プロ

今回の企画展はちょうど夏休み期間を挟んで秋まで開催されるので、この夏は親子で、可能なら3世代でぜひ楽しんでみてはいかがだろうか。通常時は定休日となる火曜日も、夏休み期間は開館しており、10時から17時(入館は16時30分まで)まで、毎日楽しめるようになっている。