東北大学(東北大)は6月5日、多数の細胞の活性を同時にモニタリングできる微小なチップデバイスを開発したと発表した。これにより、胚性幹細胞(ES細胞)の分化過程の測定を効率的に行えるようになるなど、生化学・医療分野への応用が期待できるという。

同成果は、同大原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の末永智一教授、環境科学研究科 伊野浩介助教の研究グループによるもの。詳細な内容は、5月25日付けで独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」電子版に掲載された。

有用細胞を分別する技術は、研究用ツールとしてだけでなく、移植医療、タンパク質生産などへ応用できるため、様々な技術が開発・提案されている。特に、同時に多くの細胞を簡単に測定できるような網羅的なシステム・デバイスの開発を目指し、微細加工技術を用いたチップデバイスの小型化が進められている。また同時に、測定の高感度化を目指し、電気化学測定が可能な電極センサを組み込んだチップデバイスの開発も行われている。チップデバイスの小型化と高感度化が同時に実現できれば、有用細胞の分別を網羅的に精度よく行うことができる。しかし、数多くの電極をチップデバイスに組み込んだ場合、電極の面積が膨大となり、1つのデバイス内に組み込める電極の数が限られてしまうため、同時に多数の細胞に対して電気化学測定を行うことができず、多数の電極を小型のチップデバイスに組み込むことができる新しい技術が求められていた。

今回の研究では、局所的にレドックスサイクルを誘導させる事で、網羅的な電気化学測定が可能なチップデバイスが開発された。同デバイスは、くし型電極が配置されており、またセンサを結ぶ配線を格子型にすることで、配線の交差点で局所的にレドックスサイクルを誘導し、そのシグナルを取得することができるようになっている。

開発されたチップデバイス

チップデバイスをコネクタに接続した様子

同手法を用いることで、16×16=256のセンサを含むチップを作る場合、従来法では256本のコネクタ配線が必要であったのに対し、16+16=32個の配線でよくなるなど、チップ型デバイスの小型化が可能となった。

従来法との比較。どちらも測定点部分は小型化できるが、電極リード部分や測定機器と接続されるためのコネクタ電極部分を含めると、今回開発したチップデバイスの方が小型化できている

また、このチップデバイスを用いて、実際にES細胞の活性を電流変化としてとらえ、イメージ化することにも成功した。今回開発された技術を利用すると、電気化学測定によって多数の細胞から有用細胞を分別することが効率的できるようになると期待されている。また、高感度で簡便な計測が可能という電気化学検出特徴を活かし、細胞だけでなく様々な試料に対する化学物質濃度の測定など、センサ工学の技術体系にも新しい展開を誘起することも見込めると研究グループでは説明している。

胚性幹細胞から得られた電気化学イメージ