京大など、長年の謎だったウラン化合物「URu2Si2」の「隠れた秩序」を究明

京都大学は6月4日、固体物理学における長年の未解決問題であるウラン化合物「URu2Si2」の「隠れた秩序」状態が、どのようにして発現するのか、その発現機構を理論的に解明したと発表した。

成果は、京大理学研究科の池田浩章助教、同芝内孝禎准教授、同松田祐司教授、東京大学 大学院工学系研究科の有田亮太郎准教授、日本原子力研究開発機構の鈴木通人研究員、韓国APCTPの瀧本哲也グループリーダーらの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、英科学誌「Nature Physics」電子版に掲載された。

物質の状態は、固体、液体、気体などに代表される1つの均一な状態(相)で特徴づけられ、温度などの外部環境の変化に応じて、異なる相に変化する。この状態間の変化が「相転移」と呼ばれる現象で、自然科学における中心的な研究テーマの1つだ。

例えば水が氷になるのは、低温で水分子が規則正しく整列することによるもので、相転移の1種である。このように物質は相転移により乱雑な状態から整列した状態(秩序状態)に変化していく。

物質中に多数存在する電子は、電気を運ぶ担い手であると同時に、磁石としての性質(スピン)も持っており、その電子の集団は、磁石になったり超伝導になったりとさまざまな興味深い相転移を示す。

1985年、今回の研究の対象物質であるURu2Si2において、17.5K(約マイナス256度)という低温で、新しい相転移が発見された(画像1)。当初、類似の化合物でよく見られる磁気的な相転移、つまりスピンが規則正しく整列した状態への転移が考えられたが、その後の精密な研究からその可能性は否定された。

それ以降、世界中の研究グループによる25年以上にもわたる膨大な研究にもかかわらず、「何が秩序を持った状態になったのか」という相転移の本質が未解決のまま、「隠れた秩序」と呼ばれる謎とされてきたのである。こうして、その解明は固体物理学(物質科学)の重要課題となっていた。

画像1。圧力-温度相図。矢印に沿って、「隠れた秩序」状態に相転移

今回、研究グループは、「第一原理バンド計算」に基づいて、あらゆる応答関数を理論的に評価することで、「32極子」という非常に高次の多極子が秩序化した状態が「隠れた秩序」の正体であることを明らかにした。

物質中の電子状態は、水や氷のように実際に触って確かめることができないため、外から強い光を当てたり、磁場を加えたりした時の応答を見て、間接的にその状態の情報を集めることになる。それが、応答関数と呼ばれるものであり、これを調べることで物質がどのような相転移を起こし得るのかがわかる仕組みだ。

しかし、現実の複雑な物質において、応答関数を理論的に評価するのは至難の業であり、これまではごく簡単な物質でしかそのような解析はなされてこなかった。

今回の研究グループは、その複雑なバンド構造(物質中の電子状態)を電子の軌道に分解する手法を用いることで、現実的なバンド構造に基づいて応答関数を計算する手法を開発(画像2)し、それを用いて、URu2Si2において考えうるさまざまな応答関数を計算することに初めて成功したというわけだ。その結果、得られたのが32極子という高次の多極子秩序だ。

画像2。電子状態を軌道分解して得られた無秩序相におけるフェルミ面

一般に、物質中の電子は、電荷とスピン以外にも、軌道(波動関数の形)の自由度を持ち得る。ウランのような重い原子では、この軌道とスピンが強く結びついており、多極子といわれるものを形成する。これには、通常の磁石と同じ振る舞いを示す磁気双極子、電荷が+-+-と変化するような電気四極子などが含まれるが、ここで現れた32極子は、ミクロな磁石が5つ結びついたような状態だ(画像3)。

このような新奇な状態をとらえるには、かなり注意深い高精度の測定が必要であり、既存の測定方法で見つけにくいのは自然なことであったと考えられる。

画像3。多極子の例。左から、双極子、8極子、32極子。色は磁石のN極、S極に対応

ごく最近、研究グループのメンバーである、芝内准教授、松田教授、池田助教らは、精密な磁化測定とその解析から、「隠れた秩序」状態では面内が等方的でなく、液晶のように方向性を持った(ネマティックな)電子状態であることを突き止めたが、ここで得られた32極子の秩序状態(画像4・5)は、この結果とも整合している。

「隠れた秩序」状態(左の画像4)と磁気双極子秩序(画像5)の模式図。画像4では32極子が、画像5では双極子が規則的に整列しているのがわかる

これまで、「隠れた秩序」を説明するため、さまざまな理論が提唱されてきたが、そのすべてが既存の実験結果に依拠する手法を取ってきた。一方、研究グループの取った手法は、第一原理バンド計算に基づくもので、既存の実験結果とは完全に独立であるにもかかわらず、さまざまな実験結果を総合的に説明し、非常に説得力のある結果となっている。

このような、高次の多極子の整列した秩序状態を現実の物質が取り得ることは驚くべきことであり、現実の物質がこれまで想像されてきたものよりも、さらに多様な状態を取り得ることを示すものだ。

今回の研究で得られたこの新奇な電子状態は、物質の電子状態に対する新しい知見を与え、またさらに低温(1.5K)において出現する超伝導の発現機構の解明にも役立つと考えられる。

さらに、今回の研究を通して発展させられた数値計算の手法は、一般の物質において電子状態を探るための新しい手だてであり、新物質の開発や物性予測などにも役立つことが期待されるという。

この成果は、歴史的難問を解決に導くと共に、そこで得られた新奇な電子状態は、物質の状態に対する新しい理解を与える結果となった。また、今回の研究で開発された数値計算の方法は、物質の電子状態を探る新しい手段として、新物質の開発や物性予測にも役立つことが期待されると、研究グループはコメントしている。



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