九州大学(九大)は、同大学の麻生茂教授が中心となって開発した地球観測超小型衛星「QSAT-EOS」(画像1~4)の打ち上げが、2012年12月に決定したことを発表した。

QSAT-EOSは、文部科学省の平成21年度超小型衛星研究開発事業により、九州大学、佐賀大学、鹿児島大学、九州工業大学、QPS研究所、そのほか九州内の企業が連携して開発した超小型衛星だ。

画像1。組み立て中のQSAT-EOS

画像2。開発中のモデルの1つで、最初の構造モデル(公式Webサイトより抜粋)

画像3。開発中のモデルその2。構造モデルより一歩進んだ、エンジニアリングモデル

画像4。実機と同等のフライトも出る

1辺50cm、重さ50kgと超小型でありながら、災害を監視する地球観測と超小型衛星の「汎用バス」開発を主ミッションとし、さらに、局地的な集中豪雨や積乱雲の成長などのリアルタイム観測といった、3つのサブミッションを行うことを目的として開発された。

なお汎用バスとは、衛星の使命(ミッション)に応じて観測機器などを交換し、あとは微調整のみで衛星として動かせるよう、電源、通信、姿勢制御、構体、熱設計などのベース部分が完成している衛星母体のこと。これを共用することで、開発コストが下げられるというわけだ。

なお今回の打ち上げでは、東京大学と次世代宇宙システム技術研究組合の「ほどよし1号」、名古屋大学および大同大学による「ChubuSat-1」、東京工業大学と東京理科大学および宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「TSUBAME」の超小型衛星3機と共に、まとめて衛星軌道に投入する「クラスター方式」を用いて、QSAT-EOSは打ち上げられる。

打ち上げは、ロシアのオレンブルグ州にあるヤスネ宇宙基地において(画像5・6)、コスモトラスの「ドニエプルロケット」(画像7~10)を用いて行われる予定だ。

画像5。ロシアのヤスネ基地の所在地(earth image from Google earth)

画像6。ヤスネ基地の衛星試験棟(提供:コスモトラス)

画像7。4機の超小型衛星のチェックとロケットへの組込み作業を行うクリーンルーム(提供:コスモトラス)

画像8。ドニエプルロケットの概要(提供:コスモトラス)

画像9。ドニエプルロケットの実績(提供:コスモトラス)

画像10。ドニエプルロケットの打ち上げの様子

これまでの衛星開発は大型・中型衛星が多数を占め、価格も高く、衛星の利用が広がらないという大きな課題があり、小型で低価格な衛星の開発が望まれていた。今回開発された衛星は、超小型・低価格でありながら複数のミッションをこなすことができるという特徴を有しており、これにより超小型衛星の利用が促進され、社会への貢献が広がり、人材育成にも役立つことが期待されている。

QSAT-EOSは、九州大学が開発してきた科学観測衛星の技術を元に、過去7年にわたる佐賀大学、鹿児島大学、九州工業大学、QPS研究所ならびに九州内企業との協力関係をベースにして、地球観測ミッションの実現を図ったものだ。

今回の打ち上げでは、主ミッションである災害監視の地球観測ミッションと超小型人工衛星の汎用バス開発に加えて、新規開発センサによる「微小デブリ観測」、3次元地磁気観測による「高精度宇宙天気予報」、「局地的な集中豪雨や積乱雲の成長などのリアルタイム観測」という3つのサブミッションを行う。

それぞれをもう少し詳しく説明すると、まず微小デブリ観測用に新規開発されたセンサとは、宇宙空間を漂う人工物(スペースデブリ)の内、レーダーでは探知できない全長1mm以下の微小なものを探知できるセンサだ。

そして宇宙天気予報とは、太陽風の発生を予想するためのもので、ひどい時は衛星が故障したりする恐れがある。それを、宇宙空間の地磁気を地上の地磁気と同時測定する三次元地磁気観測を実施することにより、精度を上げるというものだ。

最後の局地的な集中豪雨や積乱雲の成長などのリアルタイム観測は、近年、都市部でのゲリラ豪雨などが問題となっているが、そうした急激な天候の変化をデータ通信用電波自体を用いて観測しようというものである。

また「3軸姿勢制御」と共に、地球観測用高速画像転送やSバンドによる衛星への「コマンド・テレメトリ通信機能」など、中・大型衛星に匹敵する高機能性を有している点も大きな特徴だ。

ちなみに3軸姿勢制御とは衛星の姿勢を任意に変更できる機能のこと。中・大型衛星では当然の機能だが、超小型衛星ではまだ実例が少ない。また、コマンド・テレメトリ通信機能とは、衛星の状態を調べたり、衛星に諸動作の指令を送る通信機能のことだ。

今回の打ち上げで地球観測を主目的とした汎用超小型人工衛星システムが宇宙実証され、地球観測に限らず、科学観測、工学実証など多様なミッションを可能とする低コストの汎用超小型人工衛星が実現できることになる。

主ミッションである地球観測においては、災害監視や農水産資源管理に威力を発揮するはずだ。例えば、このような衛星を同じような軌道に数機打ち上げることにより、日本上空のある指定された場所を1日数回観測できるなど、今までにない多頻度の地球観測が可能となるのである。

また、このプロジェクトを通して多くの大学院生が携わることになるため、OJT(On the Job Training)の人材育成の場としても大きな効果が期待される形だ。さらに、QSAT-EOSの開発には九州内の多くの企業が関わっており、地元産業界にも大きなインパクトを与え、産学連携の促進にも貢献しているのである。

九州大学は、2012年12月の QSAT-EOS打ち上げを機会に、そこで得られた衛星画像を使って災害監視や農水産資源管理のネットワークを構築し、社会貢献を行っていく予定だ。また、将来的には5~10機の超小型衛星コンステレーション(複数の衛星を協調させて同一の目的を果たすシステムのこと)を目指すとしている。

衛星の仕様は以下の通り。

  • サイズ:50cm立方
  • 重量:50kg
  • 寿命:2年
  • 姿勢制御:3軸、精度5°/0.1°
  • 通信:Sバンド、Kuバンド
  • 平均高度:530Km
  • 軌道周期:95分
  • 軌道傾斜角:97.5°(降交点時刻11amの太陽同期軌道)