IMSの江東林 准教授らの研究グループは、電子ドナーとアクセプターを重合することで、電荷分離を制御し光電変換を高効率にする2次元高分子材料の合成に成功したことを発表した。同成果の詳細は、独化学会が発行する材料領域の学際的科学誌「Advanced Materials」に掲載された。

光を電気に変換するには、電荷分離状態を作り出すことが必要不可欠だ。電子ドナーとアクセプターを組み合わせた系では、光誘起電子移動反応によって電荷分離状態を作ることができるが、効率よく電荷分離を達成するためには、電子ドナーとアクセプターを組織化することが鍵となる。しかし、電子ドナーとアクセプターは強い静電相互作用のため容易に会合し、生じた電荷分離状態がすぐに失活してしまい、この静電相互作用を打ち消すため、これまで自己組織化や液晶などさまざまなアプローチが検討されてきたが、いずれも秩序構造を保つためには、自己組織化するための溶媒条件や液晶化のための温度条件など特定の条件が必要で、適応範囲が限られていた。また、これらの場合、規則的な構造を持たないため、デバイスへの展開には適していないという課題もあった。

研究グループでは、これまで規則正しいポア構造を有する共有結合性高分子である2次元高分子(積層することで多孔性有機構造体を形成する高分子)の合成と機能開発の研究を行ってきている。2次元高分子は積層することで1次元チャネルを有する多孔性有機構造体を形成するが、これまでの研究で、2次元高分子にπ電子系を導入することで、新しいπ電子2次元高分子の合成を実現してきたほか、最近では、2次元高分子を用いて、光捕集機能やホール伝導機能、電子輸送機能、光伝導機能、ガス吸着機能などを見いだし、従来の高分子にはない特異な機能を実現している。

今回研究グループは、2次元高分子の持つ規則正しい周期構造に着目。これまで一般に電子ドナー・アクセプターはランダムに混合されてきが、今回、2次元高分子の構築に電子ドナーとアクセプターユニットを用い、新規なπ電子系2次元高分子の合成に成功した。具体的には、電子ドナーとしてトリフェニレン誘導体、電子アクセプターとしてベンゾチアジアゾール誘導体を用いて、縮重合反応により電子ドナーとアクセプターからなる2次元高分子を高収率で得ることができるようになったという。

図1 電子ドナーとアクセプターを用いた二次元高分子の基本構造。ドナーとアクセプター部が規則正しく交互に連結し、六角ナノポアを形成しながら2次元シートを形成している(赤はドナーとなるトリフェニレン、青はアクセプターのベンゾチアジアゾール)

電子ドナーとアクセプターからなる2次元高分子はドナーとアクセプター部が規則正しく交互に連結し、六角ナノポアを形成しながら2次元シートを形成している。2次元シートはさらに積層することで、電子ドナーとアクセプターが互いの真上に来るような積層構造を形成しているほか、2次元平面内におけるドナー・アクセプターの周期構造は積層することにより縦方向にも拡張され、独立した電子ドナーとアクセプターのカラム構造を作り出す。

図2 2次元高分子の積層構造(下の絵)およびドナー・アクセプターの周期構造。電子ドナーとアクセプターが互いの真上に来るような積層構造を形成しており、ドナー・アクセプターの周期構造は積層することによって縦方向にも拡張され、独立した電子ドナーとアクセプターのカラム構造を作り出している(図1の拡大図:Dがドナー、Aがアクセプター)

電子ドナーからアクセプターへの光電子移動反応を引き起こすには、ドナーとアクセプターを数nmの極近距離に置く必要があるほか、電子ドナーとアクセプターが独立することで、ドナー・アクセプター間で接合界面ができ、電荷分離が可能となり、電子移動を効率よく起こすことができるが、今回合成に成功した2次元高分子はそのどちらの条件も満たしたものだという。

これまで、単なる電子ドナーとアクセプターの混合のアプローチでは、いずれも秩序構造を保つ組織化や液晶化の特定条件がボトルネックになっていたが、今回の成果のように電子ドナーとアクセプターを共有結合で連結し、1つの2次元高分子材料に組織化したドナー・アクセプター構造体を作ることで、従来にない、実用化に適した究極とも言える構造が生み出されたこととなった。

電子ドナー・アクセプター2次元高分子は、独立したドナーとアクセプターのカラムを持ち、それらを経由し、電子とホールの両方を伝導することが可能となる。実際、キャリア移動度を計測した結果、電子とホールがそれぞれ0.04と0.01cm2V-1s-1という高い移動能が示された。

この数値は、通常の単なるドナー・アクセプターを用いた場合と比べ、一桁高い値であるほか、2次元高分子では、電子ドナーとアクセプターは隣接しており、光誘起電子移動を引き起こせる空間距離に配置されているため、可視光を照射すると、速やかに応答し、大きな光電流を生み出し、優れた光伝導性を示した。

これに対して、電子ドナーのみからなる2次元高分子や秩序構造を持たないドナーとアクセプターの混合系では光に応答せず、光伝導が示されないことも確認しており、この結果は、電子ドナーとアクセプターを2次元高分子の積層構造にすることにより、意図的に電荷分離を起こすドナー・アクセプター界面の面積を最大にし、最大限の光電変換を起こせるような周期構造のデザインが可能になったことを実験的に示すものであると研究グループでは説明している。

図3 光を照射した際の時間当たりの電流量。赤の曲線は、今回合成した秩序構造を持つ電子ドナー・アクセプター2次元高分子。ほぼ0のラインにある青の線は、ランダムなドナー・アクセプターの混合系。2次元高分子は、ランダムな混合系と比べて、1万倍も高い光電流を示している

さらに今回の研究では、周期構造を保ったまま2次元高分子を基板上で作る手法の開拓も行っており、グラフェン基板上に平らで欠陥のない2次元高分子の薄膜を作ることに成功した。同手法では、合成条件を変えることで、厚みを制御してフィルムを作ることも可能なため、デバイス化に向けた弾みとなるという。

なお研究グループでは、今回開拓された合成手法は、電子ドナーとアクセプターを究極の周期構造に組織化することが可能で、さまざまなπ電子系に広く適応することが可能なほか、基板上で電荷分離構造体を構築することが可能となったため、今後、この2次元高分子新材料を電池構造にどのように組み込んでいくかという検討や、太陽光を効率よく吸収できる色素で同様な2次元高分子材料を作成することを経て、太陽電池をはじめとする光電変換デバイスへの展開が期待できるようになるとしており、このような、分子レベルで構造が完全に制御されたデバイスの開拓により、これまでにない高効率な光電変換の実現につながることを強調している。