慶應義塾大学(慶応大)理工学部の津田裕之教授と産業技術総合研究所(産総研)ネットワークフォトニクス研究センターの河島整研究チーム長らの研究グループは、相変化材料を用いたフォトニックネットワーク用導波路型光ゲートスイッチを開発したことを発表した。同成果は、Optical Society of America発行の「Optics Express」に掲載された。

インターネットトラフィックは年率約30%で増加しているため、ネットワークの大容量化が必要となっているが、それに伴う電力消費の増大に対応するためのネットワークの省電力化が課題になっており、その解決策の1つとして光電気変換を最小限に抑えるフォトニックネットワークの研究開発が各所で進められている。

フォトニックネットワークのキーデバイスが光スイッチであり、光信号の切り替え、経路設定に利用される。MEMSスイッチやLCOSを用いた光スイッチの利用が検討されているが、いずれのスイッチもスイッチング時間がミリ秒以上であり、素子寸法も大きい。また、ニオブ酸リチウムや半導体を用いた高速光スイッチの小型化、大規模化も困難であるという課題がある。

こうした課題に対し、同研究グループでは今回、小型光回路に適したSi細線光導波路と、メモリ性を有して高速に状態が変化する相変化材料を組み合わせた新規の光スイッチを開発した。

Si細線光導波路は、光の閉じ込めが強いので従来の石英光回路の1/100~1/1000の寸法で同等の機能を実現することが可能な一方で、光スイッチに用いたGeSbTe系相変化材料は、相変化に伴う屈折率変化が数十%以上と大きく、相変化に要する時間が100ns以下であり高速であることが特長であり、これらSi細線導波路と相変化材料を組み合わせることで、メモリ性、高速性、広帯域性を有した従来の導波路型光ゲートスイッチ比で1/10以下の寸法を実現した小型の光スイッチを構成することが可能となった。

開発された光スイッチの構造は、SOI基板上に、Siの1入力1出力Multi-Mode Interference(MMI)導波路が構成され、その中央上部に直径1μm、厚さ35nmのGe2Sb2Te5薄膜が、SiO2によって埋め込まれているというもの。MMI導波路の寸法は、長さ15.3μm、幅2.25μmで、Ge2Sb2Te5薄膜に上部から波長660nmの制御光パルスを照射し、Ge2Sb2Te5をアモルファス状態と結晶状態でスイッチングさせる。アモルファス化にはパルス幅40ns、ピークパワー160mWの光パルスを、結晶化にはパルス幅400ns、ピークパワー50mWの光パルスを利用する。

今回開発された光スイッチの構造

スイッチングの応答を測定した結果は、OFF→ON状態へのスイッチング時間は130ns、ON→OFF状態へのスイッチング時間は400nsであり、光パルス照射により、波長1525nmから1625nmに至る波長帯で、平均消光比12.6dB、スイッチング速度400ns以下で、2000回以上のスイッチングが確認された。

今回開発された光スイッチの応答時間

なお、研究グループでは今後、材料の改善による低損失化、方路スイッチの構成検討を経て、小指大の寸法の大規模なマトリックススイッチ、波長切り替えスイッチの実現を目的として研究開発を継続する予定であるとしている。