年々、グラフィックが精細になって“リアル”に近づいていく家庭用ゲーム。まるでハリウッド映画のようなスケール感を味わえるタイトルも次々と登場してきています。いったいゲームはどこまで進化していくのでしょうか?

「バイオハザードやファイナルファンタジーの最新版は、映画とほとんど変わらないクオリティーの映像ですよね。ゲームという娯楽を突き詰めるとこうなるのかと感嘆しました。ただ、リアルすぎて自分の子どもにはやらせたくないかも(笑)」と語るのは、映像作家としてNTTドコモのCM「森の木琴」などを手がけて国際的な評価を得ている武蔵野美術大学の菱川勢一教授。確かに一昔前に比べるとゲームの映像の進化はすさまじいものがありますよね。もっとも菱川教授によれば「最近は進化の方向が少し変わり始めている」とのこと。一体、どんな方向に進化しているのでしょうか? 詳しく話を伺いました。

ハードの機能でゲーム自体が変わる

「任天堂のWiiが登場したとき、リモコンをラケットやハンドルなどに見立てて操作するという発想に『なるほど、こう来たか』と思いました。これまでのゲームの領域にとどまらない新しい遊び方を提案しているところに好感を抱いたのです」(菱川教授)

 確かにリモコンを振り回すという発想はユニークですよね。同じように新しい遊び方を提案するゲームデバイスとしては、ジェスチャーでプレイできるXbox 360のKinectや、ペンで操作できるニンテンドーDSのタッチパネル、ゲーム機を持ったまま指先でさまざまな制御が行えるPS Vitaの背面タッチパッドなどが挙げられます。

「こういった機能の進化によって、ゲームが“娯楽”という枠だけでは語れなくなってきているんです。例えば、ニンテンドーDSが小学校で漢字の書き取りの授業に使われる事例も出てきています。日本マクドナルドも社員教育にニンテンドーDSを導入していますね。調理の手順などがゲームを攻略する感覚で覚えられるそうですよ」(菱川教授)

 マクドナルドは、その社員教育用ソフトをベースにした食育ゲーム「DSマック アドベンチャー」を、期間限定で無料配信していたこともあるそうです。ちょっとプレイしてみたいですよね。

「人間って、楽しみながらやることはすんなり覚えるんですよね。教科書を広げてノートに書くという従来の学習スタイルが、このように変わっていくのは歓迎できることだと思います」(菱川教授)

医療にも活用されるゲーム機

 ちなみにニンテンドーDSなどのゲーム機は、教育分野だけでなく医療分野でも活用されているそうです。

「認知症の予防や治療のためにニンテンドーDSと『脳トレ』を導入した病院もあるそうです。こうした学習ゲームの類いは書籍などを使ってもできることですが、ゲーム機の場合は操作によって音が鳴るなど、何らかの反応が返ってきます。そういったインタラクティブ性や、攻略することによる達成感などが、学習や治療などには良好に作用するんですね。これもひとつの進化の方向性だと思います」(菱川教授)

 現在は、スマートフォンなどのように、ゲーム専用機以外にも多彩なゲームが楽しめる端末が増えてきています。菱川教授によれば「今後はこうした端末を教育や医療で活用するケースも増えてくるはず」とのこと。ただし、ゲーム機やスマートフォンなどのさまざまな“モノ”があふれる現在の状況に、一抹の懸念も抱いているそうです。

「若い頃、特に学生時代は、いろんなことを消化して蓄えることができる期間です。そうしたときに、身の回りにある雑多なことを全部許容して消化しようとするのは危険。実際、今の大学生はSNSやブログ、TV、バイト、ゲームなどで時間を消費し、疲弊してしまっているところがあります。知らないことや苦手なことがあってもいいので、自分のスタイルやこだわりをしっかり持って、『これが好き』とバシッと言えるようになってほしい。特に表現者になりたいなら、万能選手を目指すのではなく“これだけは負けない”と胸を張れるものを見つけてほしいですね」(菱川教授)

文●山口優

菱川勢一教授のWebサイト
http://seihishikawa.com/

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