長崎大とカネボウ、「紫外線高感受性症候群」の原因遺伝子を究明

長崎大学とカネボウ化粧品(カネボウ)は4月2日、日光を浴びると強い日やけ反応(紅斑)を示す「紫外線高感受性症候群」の原因となる「UVSSA遺伝子」を発見し、その分子機能解析を最新技術「次世代シーケンス解析法」を用いて実施した結果、患者間の全遺伝子配列を比較することで原因遺伝子を突き止めることに成功したと発表した。

成果は、長崎大がん・ゲノム不安定性研究拠点(NRGIC)、同大学院医歯薬学総合研究科附属原爆後障害医療研究施設の中沢由華 テニュア・トラック助教、佐々木健作研究員、光武範吏助教、荻朋男准教授らと、カネボウ・価値創成研究所の共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、4月1日付けで「Nature Genetics」誌オンライン速報版に掲載された。

紫外線は皮膚にとって最大の環境要因であり、さまざまなダメージを与える。顕著なシミ・シワを皮膚症状とする光老化、並びに病的に進行した日光角化症などは、紫外線が皮膚に与える影響の代表例だ。これらの症状は、紫外線を浴びた後に皮膚が赤くなるといった急性反応(日やけ)が長い年月の間に繰り返されて、生じることが知られている。

一方で、皮膚は紫外線のダメージを受けると、その影響を最小限にとどめるために多様な応答を示す。この過程で多くの遺伝子が関与することが知られているが、これらの遺伝子がどのようなメカニズムで働くかは十分に解明されておらず、それぞれの遺伝子の役割についても未知な部分が多いのが現状だ。

超高齢社会を迎え、健康な人にとってのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上が望まれる中、このメカニズムの解明を行い、日々のスキンケアを通じて日やけを予防し、将来の皮膚老化リスクを軽減することは重要なテーマの1つであるといえよう。

そこで、研究グループは、紫外線による日やけ反応のカギとなる遺伝子を明らかにするため、紫外線を浴びた後に強い日やけ症状を示す遺伝性疾患「紫外線高感受性症候群」に着目したのである。

紫外線を浴びると多くの生体防御機構が働くが、中でも傷ついたDNAを修復する「ヌクレオチド除去修復機構(NER:Nucleotide Excision Repair)」は重要だ。

NERにはゲノムDNA全体をゆっくりと修復する「GGR(Global Genome Repair)」と、今まさに遺伝子として発現している、すなわちタンパク質の設計図として働いている活性化したDNAを局所的に素早く修復する「TCR(Transcription Coupled Repair)」の2つの経路が存在する。

このTCRがうまく働かないという、紫外線に関わる遺伝性疾患の1つが「コケイン症候群」だ。コケイン症候群は、正常な遺伝子発現が妨げられることで、日光を浴びて傷ついたDNAを持つ皮膚細胞が修復されず、皮膚炎(紅斑)を発症、さらに早期老化症状が現れるという疾患だ。

同じ遺伝性の光線過敏症「紫外線高感受性症候群(UVsS:UV-sensitive syndrome)」(画像1)も、TCRがまったく働かず、皮膚炎(紅斑)を発症する。しかしコケイン症候群とは異なり、早期老化などの重篤な症状は現れず、強い日やけ以外の症状はほとんど見られない、極めて軽度な遺伝性疾患だ。

そのため、症例報告も数少なく、ほかのNER欠損疾患に比べても研究が進んでいないという実情がある。最初の症例が報告された1981年から約30年もの間、原因となる遺伝子は不明のままだったのだ。

画像1。UVsS患者の臨床写真(5歳女性:XP70TO)

しかしUVsSの発症機構を明らかにすることは、日やけの詳しいメカニズムの解明にもつながり、さらにはコケイン症候群と比較することで、老化メカニズムの解明にもつながることが期待されるので、極めて重要な研究領域なのである。

今回の研究に当たり、研究グループでは、暗号解読技術の次世代シーケンス解析法を用いることにした。DNAは4種類の塩基(アデニン、シトシン、グアニン、チミン)からなり、これらの塩基が平均して数1000個程度並ぶことで1つの遺伝子を表す暗号となることは多くの方がご存じのはず。シーケンス解析とは、これらの並び方を順に読み取ることでその暗号を解読する作業だ。

従来は、バラバラにしたDNAを鋳型とし、1塩基ずつ再合成する時の蛍光強度を検出し、配列を解読していた。これに対し、「次世代シーケンス解析法」は、数1000万から数億のDNA断片を並列して処理することでシーケンスの解析スピードを飛躍的に向上させたもので、ヒト1人分の全ゲノムDNA配列をわずか1日で読み取ることが可能なのである(画像2)。

今回、研究グループはこの次世代シーケンス解析技術を用いて、2名のUVsS患者の細胞からDNAを抽出して原因遺伝子の同定に挑んだ次第だ。

画像2。次世代シーケンスの流れ

ヒトの全ゲノムDNAは30億の塩基の並びでできており、この内の数1000万の塩基が遺伝子に当たる。さらに、この遺伝子配列の約0.1%が個人ごとに異なっており、この違いにより個人差が生み出されているというわけだ。そこで、まず解読した2名のUVsS患者の全遺伝子配列の内、暗号に特徴的な変化が見られる箇所がコンピュータを用いて抽出された。

次に、抽出した遺伝子配列を2名の患者間で詳細に比較し、約10万箇所にも及ぶ遺伝子の暗号の特徴的な変化の内、個人差と考えられる箇所をすべて除外し、最終的に疾患の原因と考えられる1つの遺伝子変異が突き止められたのである(画像3)。研究グループは、この変異を持つ遺伝子こそが、UVsSの原因遺伝子(UVSSA)候補であると考えたのである。

画像3。疾患の原因となる遺伝子変異の絞り込み作業のイメージ

続いて、発見した遺伝子の妥当性を検証するため、他のUVsS患者の細胞に対し、今度はUVSSA遺伝子の配列のすべてにおいて、変異があるかどうかの調査が行われた。その結果、ほかの3つの症例にもやはりUVSSA遺伝子に変異があることが確認できたのである。

これらの患者の細胞では、UVSSA遺伝子によって作られるUVSSAタンパク質が存在しないか、あるいはわずかにしか存在しないため、TCRがうまく働かないことも明らかとなった。

そこで、それぞれのUVsS患者の細胞に正常なUVSSA遺伝子を導入し、欠損したTCRの機能が回復するかを調べたところ、予想通り健常人と同程度までTCRの機能が戻ったのである。さらに、UVSSAタンパク質は、紫外線を浴びてDNAが損傷することで活動を停止したRNA合成酵素に作用し、RNA合成を再開させる作用を持つことも判明した。

今回の遺伝子に関しては、長崎大とカネボウの共同研究グループのほかにも、大阪大学とエラスムス医学センター(オランダ)の2つのグループも相次いで発見しており、今回、同時に「Nature Genetics」誌に論文掲載される形だ。

今後の展望だが、現在は健常人のDNA修復機構においてUVSSA遺伝子がどのように働いているのか、さらに詳しい解析が進められている。また、UVSSA遺伝子の働きの強さの違いによって、人それぞれの日やけのしやすさが異なる可能性についても調べているところだ。

このような研究から、今後は健常人における一般的な日やけのメカニズムを明らかにし、日やけしにくい肌へと導く技術の開発を進めていくとしている。さらには、コケイン症候群と比較することで、老化のメカニズムの解明を目指していくと、研究グループはコメントした。

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