北海道大学(北大)と日立製作所は、上咽頭がんの患者において、共同で開発した半導体ポジトロン断層撮影(PET)装置を用いた場合と従来のPET画像を利用した場合とで放射線治療計画の比較を行い、半導体PE の有用性を証明したと発表した。同成果は「International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics」に掲載された。

放射線治療では、その治療計画において画像上で腫瘍を正確に囲うことが、治療の成功はもちろんのこと、腫瘍周囲の正常組織に余分な放射線照射を減らすことにもつながるため重要とされている。画像診断装置の発展に伴い、CTやMRI、近年ではポジトロン断層撮影(PET)が放射線治療計画に利用されているが、従来型のPET画像では、描出される腫瘍はその辺縁がぼやけてしまい、境界を決定するのが難しいため、放射線治療計画での利用も限られていた。

こうした課題を解決するため、北大と日立は、半導体検出器を使用したヒト頭部用PET装置を共同で開発した。従来型のシンチレータ検出器を使用したPET装置の空間解像力は4~7mmだが、今回の半導体PETでは2.3mmであり、従来に比べコントラストの高い画像を得ることが可能となったという。

また、今回はこのコントラストの高い画像に着目した研究も進められた。具体的には、18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)の半導体PET画像と従来のPET画像をいずれも同日に撮像した上咽頭がんの患者12症例を対象として比較。2種類のPET画像の各々において腫瘍の輪郭を囲って標的体積を設定し、また、それらの標的体積に基づいた放射線治療計画を作成。標的体積と放射線治療計画を比較し、半導体PETの有用性の検証が行われた。

PET では、現在、18F-FDG が、医療現場で広く用いられているトレーサーで、腫瘍のブドウ糖代謝を反映しているが、この他にも、さまざまなトレーサーがあり、腫瘍細胞の代謝、増殖、低酸素といった状態を画像化することが可能である。そのため、今後は、空間解像力の高い半導体PET装置でこれらのトレーサーを利用することで、分子レベルで腫瘍を標的とする放射線治療の実現が近づくものと研究チームでは期待を示している。