北海道大学(北大)は2月16日、転移能の異なる腫瘍から分離・培養された腫瘍の血管の性質を比較し、転移能が高いがんにおいて、「腫瘍血管内皮細胞(TEC)」はより高い増殖能や遊走能を有し、「血管内皮増殖因子(VEGF)」やその受容体の発現が高いこと、さらに薬剤抵抗性や自己複製能が高い幹細胞の性質を持つものがあることを見出したと発表した。つまり、転移能の高いがんの中の血管内皮細胞は、高い血管新生能や薬剤抵抗性を獲得していることを明らかとしたのである。成果は北大大学院歯学研究科の樋田京子特任准教授らの研究グループによるもので、論文は米科学雑誌「American Journal of Pathology」に米国時間1月11日に掲載された。

がんにおいて、血管はがん細胞に栄養や酸素を供給することで、その進展や転移にも深く関与している。そうしたがんの血管は、正常血管と比較した場合、血流の変化や血管透過性の亢進、基底膜の構造異常や周皮細胞の異常など、形態学的な違いを持つ。その腫瘍血管の内腔を裏打ちする構成細胞がTECだ。正常血管内皮細胞と比較して、特異遺伝子の発現亢進など、分子生物学的にも異なることが報告されている。

近年認可された「ベバシズマブ」をはじめとする「血管新生阻害療法」は、そうした腫瘍内の血管の新生を抑制し、腫瘍を兵糧攻めにする新たながんの治療法として注目を集めている。ちなみにベバシズマブは、VEGFに対するモノクローナル抗体であり、そのVEGFの働きを阻害することにより、血管新生を抑制し、腫瘍の増殖や転移を抑える作用を持つ。

その一方で、それらの薬剤が奏功しづらいがんの報告も上がってきている。研究グループもこれまで、TECには染色体異常や薬剤抵抗性があることなど、さまざまな異常性を持つことを報告してきた。しかし、悪性度の異なるがんにおけるTECの性質の違いについては、今まで明らかではなかったのである。

またTECは、転移するがん細胞にとっては重要な関門の1つであることから、がんの転移と関連しTECの性質には差があるのではないかと研究グループでは考察。そこで、転移能の異なる腫瘍からTECを分離・培養し、それらの生物学的性質を比較検討が行われたというわけだ。

低転移性ヒト腫瘍細胞と高転移性ヒト腫瘍細胞をヌードマウスに皮下移植し、それぞれの腫瘍塊から、高転移性腫瘍由来血管内皮と低転移性腫瘍由来血管内皮を分離・培養して比較検証が行われた。

結果わかったことは、低転移性腫瘍由来血管内皮に比べ、高転移性腫瘍由来血管内皮は増殖能および遊走能が高く、血管新生関連遺伝子であるVEGF、「Vascular Endothelial Growth Factor receptor-1(VEGFR-1)」、「同2」、「Hypoxia indicible factor-1α(HIF-1α)」などの遺伝子発現が高いことなどである。

さらに、高転移性腫瘍由来血管内皮は幹細胞マーカー、「Stem cell antigen-1(Sca-1)」、「CD90」の遺伝子発現が亢進しており、さらに骨への分化や3次元培養における「スフェロイド形成」といった幹細胞性を有していることも確認された。

研究グループでは、今回、がんの悪性度(転移能)の違いによるTECの多様性を解明したことは、がんの転移を制御する治療における、新たな分子標的治療の開発につながるものと考えているとしている。