北海道大学(北大)は2月9日、脳腫瘍の性質を診断する新しい手法として、酸素の利用状況を調べる「ポジトロン断層撮影法(PET)」を用いる方法を開発したと発表した。成果は2月3日(独時間)、「European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging」に掲載された。

脳腫瘍は難治性の病気だが、近年はさまざまな治療法が発達しつつあり、生存率が向上してきた。脳腫瘍といってもさまざまな種類・性質があり、それぞれに応じた適切な治療法を選択する必要がある。

一般に脳腫瘍の画像診断には磁気共鳴画像法(MRI)などが用いられるが、画像だけで腫瘍の種類を確定するのは難しく、一度開頭手術を行って腫瘍組織を採取し、病理診断が決まってから治療を開始する必要があった。

「放射性同位体フッ素18」で標識された「フルオロミソニダゾール(FMISO)」を投与してからPETで撮影すると、体内の酸素が不足している箇所を画像化することが可能だ。酸素の量と脳腫瘍の種類には関連性があるため、この方法を使うことで、手術をせずに脳腫瘍の種類を診断できるのではないかと、研究グループでは考察。そこで、23人の脳腫瘍患者の協力を得て、手術前にPETを行い、その結果を手術後の病理診断(脳腫瘍の種類)と比較した。

PETの結果と病理診断の結果は全患者で一致し、脳腫瘍の中で最も悪性の「神経膠芽腫(こうがしゅ)」(画像1)と、それ以外の「神経膠腫(こうしゅ)」(画像2)を、PETによって正しく区別できることが判明したのである。神経膠芽腫と神経膠腫の違いは、前者はMRIで確認できる上にPETでも注射した薬が病巣に集まることからすぐわかるが、後者はMRIではわかるものの薬が集まらないのでPETでは確認できないというところだ。

画像1。脳腫瘍の中で最も悪性度が高いグレード4の神経膠芽腫。左がMRI画像で、右がPET画像。MRIの黄色い丸の中に腫瘍があり、PETでは注射した薬が集まっているので明らかに周囲と活動状況が異なっている

画像2。グレード3の神経膠腫。MRIでは薄いとはいえ確実に異常を確認できるが、PETだと薬が集まらないのでまったく周囲と差異がない

このように、今回の診断方法を用いれば、まず診断を確定するための開頭手術を省略できるようになるので、患者の身体的負担を大きく減らせる点がメリットとなる。また手術をしないことで、抗がん剤や放射線による治療を早く開始できるようになることも考えられるという。さらに、もし手術が必要と判断された患者に対しても、手術前に腫瘍の種類を確認できることから、より適切な手術計画を立てられるようになるものと考えられており、そうしたことから今回の診断方法は期待されるものになると同大では説明している。