AppleがARM版MacBookをリリースするという噂が以前にささやかれていたが、実際に同社がMac OS XのDarwinカーネルのARMへのポーティング作業を行っていたことを示唆する文章が出てきて話題になっている。ただしこの文書は、ARM版Macがリリースされる証拠というよりも、同社が過去にさまざまな可能性を探っていた証左といえるものだ。

今回話題になっているのは、Tristan Schaapという人物が米AppleのPlatform Technologies Groupで2010年内の12週間にわたってMac OS X Snow LeopardのDarwinカーネルのMV88F6281へのポーティング作業を行っていた成果を記した論文が、秘密保持契約期間を経て昨年2011年8月に公開されたものiMore.comがこの件について報じている。MV88F6281はARMv5ベースのMarvell製プロセッサで、現在iOSデバイスにも採用されているARM Cortex-Aシリーズ(ARMv7)の前身にあたるものだ。なお、MarvellのARMプロセッサ資産はIntelから売却されたXscaleから派生したもので、ARMv5の命令セット互換というのはXscaleの系譜を引き継いでいるものと思われる。

Schaap氏の論文を公開したのはオランダのデルフト大学(Delft University of Technology)で、実際に内容を読んでみるとわかるが、同氏がインターンとしてAppleに参加している間、その能力をみるための課題として与えられたのが前述のテーマのようだ。Schaap氏の12週間のポーティング作業におけるゴールはマルチユーザーモードでのカーネル動作を確認することだったようだが、MarvellのテストボードシステムにおけるDarwinカーネルの動作は、実装の問題もあり、かなり厳しかったことがうかがえる。同氏のその後についてはApple InsiderがLinkedInのステータスに基づいて報じており、それによれば現在同氏はCoreOS EngineerとしてフルタイムでAppleに在籍しているようだ。

ただし、もし本気でDarwinカーネルをARMプラットフォームで動作させることを考えていたとすれば、1人のインターンにそのポーティング作業という重要かつ厳しい業務をAppleが任せるとは考えにくい。結局、これはあくまでテストケースとして試してみたと考えるのが適当だろう。

現在のMac製品群をIntelプロセッサからARMへとスイッチすることが、Appleのビジネスにどれだけのメリットがあるかを説明するのは難しいところだ。とはいえMacはこれまで3回、システムアーキテクチャを変更してきた。ARMプロセッサが必要十分な条件を満たせば、x86アーキテクチャにこだわる理由もまたないとみられる。

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