情報通信研究機構(NICT)は1月25日、電波と人体との相互影響を調べるために独自に開発した、解剖学的構造を有する「日本人数値人体モデル」用「ポーズ(姿勢)変更ソフトウェア」(画像1)を、非営利の研究目的に対して2月1日から無償公開すると発表した。数値人体モデルとポーズ(姿勢)変更ソフトウェアを利用することで、多様化している無線通信端末の使用環境を模擬した評価を行えるようになる。また、放射線の被ばく線量評価などさまざまな分野での利用も可能だ。

画像1。ポーズ(姿勢)変更ソフトウェアの操作画面

急速な無線通信技術の進歩に伴って、一般の人々のごく近くで「電波」が利用され、その利用形態も多様化している。電波が人体に及ぼす影響については、50年以上にわたって世界各国で研究が行われており、その膨大な研究成果によって、携帯無線端末などの電波については、熱作用に基づいた電波防護指針が定められている具合だ。

電波により生じる人体の熱作用の評価には、体内への電力の吸収量が指標として用いられ、数値人体モデルを利用したコンピュータシミュレーションによって、正確かつ詳細な評価を行うことが必要である。そこでNICTが公開しているのが、人体の解剖構造を詳細に模擬した立位の「数値人体モデル」だ(画像2)。

画像2。日本人成人男女の数値人体モデル。左が正面からの断層表示で、右がボリュームレンダリング表示。ボリュームレンダリング表示とは、3次元ボリュームデータを可視化するための表示方法のことである。ボリュームレンダリングでは、ボリュームデータの内部を半透明にできるため、数値人体モデルの内部組織構造の確認も行えるメリットを持つ

現在公開されている数値人体モデルは、人体(組織・臓器)の形状を、一辺が2mmの立方体ブロック600万個以上で構成して表現したもので、51種類の人体組織・臓器を有する日本人成人男女の人体モデルとなっている。男性は「TARO」、女性は「HANAKO」と名付けられており、体型は日本人の平均体型に合致させた形で、身長はTAROが173.2cm、HANAKOが160.8cm、体重はTAROが65kg、HANAKOが53kgとなっている。

各微小ブロックには、その部位に対応する組織・臓器名が与えられており、その組織・臓器に対応する電気定数を与えることで電磁界解析シミュレーションに用いることが可能だ。また、各組織・臓器にほかの物性値を与えることで、放射線の被ばく線量評価や自動車安全のための傷害解析など、幅広い研究分野で利用することもできる。

この数値人体モデルは北里大学・慶応義塾大学・東京都立大学との共同研究により、日本で初めて、日本人平均体形を有する成人男女の全身数値モデルとして開発された。日本人成人男女の平均身長と平均体重に合致したボランティアのMRIデータに基づいて作られている。ちなみにHANAKOの方は、世界初のミリメートルの空間分解能を有する全身数値人体モデルだ。

今回公開するポーズ(姿勢)変更ソフトウェアには、「自由形状変形(Free-form Deformation)」法が応用されている。自由形状変形法とは、数値人体モデルの各部位の周囲を囲む格子を設定し、その格子の制御点を動かすことで、数値人体モデルの各部位を滑らかに変形できるというものだ。

これにより、数値人体モデルの体表面と骨の形状を確認しながら、インタラクティブな操作でポーズを自由に変更することができるというわけである(画像3)。さまざまなポーズのモデルを利用することで、無線通信端末の使用時に「電波」が人体内部でどのような振る舞いをするかを、より高精度に推定することが可能だ。

画像3。数値人体モデルのポーズ変更例

ポーズ(姿勢)変更ソフトウェアの公開条件、利用申請法などについては、NICT公式サイト内から申し込める。また数値人体モデルとしては、すでに妊婦女性モデルが公開されているが、ポーズ(姿勢)変更ソフトウェアを対応させる予定。さらに、数値人体モデルの小児モデルも開発中で、こちらも将来的にはポーズ(姿勢)変更ソフトウェアを対応するよう準備を進めている。