江戸っ子1号プロジェクト推進委員会は2012年1月17日、都内で連携支援団体などとのプロジェクトを本格的に進めるための共同開発契約調印式を執り行った。

同プロジェクトは、東大阪の「まいど1号」に刺激を受けた東京の町工場を中心とした中小企業4社(杉野ゴム化学工業所、浜野製作所、パール技研、ツクモ電子工業)と、開発支援などを行う東京東信用金庫、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、芝浦工業大学、東京海洋大学の8者が協力して、深海探査を低コストで実現できるビークルを開発しようというもので、JAMSTECの「実用化展開促進プログラム」にも採択された。

左が「江戸っ子1号」の実現に向けて集結した自らを下町の町工場とする杉野ゴム化学工業所、浜野製作所、パール技研、ツクモ電子工業の面々(下段)と、東京東信用金庫、JAMSTEC、芝浦工大、東京海洋大などの連携支援を行う団体の面々(上段)。右はプロジェクトの推進体制

「江戸っ子1号」というネーミングは「下町の元気を取り戻そうということで考え出されたプロジェクト。下町と言えば江戸っ子。そして1回目のトライアルということで江戸っ子1号と決定。下町の町工場の意気込みをこれに込めた」(杉野ゴム化学工業所 杉野行雄社長)という。

開発費用は公式で2000万円となっている。機体としては耐圧ガラス球の中にライトやカメラ、GPSなどを実装し、重りを付加して海中に投下するというもの。浮上は海上から超音波無線で重りを切り離し、浮力によってなされ、GPSの信号で位置を特定し回収するという仕組みとなっている。自由降下/浮上型ということで、一般的な深海調査船などが不要となり、運用面でのコストも桁違いに安くできるようになるという。

耐圧ガラス球(左)と、ガラス球を3つ搭載した深海シャトルビークルのイメージ(右)。イメージは芝浦工業大学デザイン工学部の釜池光夫教授によるガラス球を3つ搭載した場合のデザインだが、実際の機体は、また搭載機能などの最終仕様が決まっていないため、異なるものとなるとのこと

「宇宙は宇宙で難しいが、深海も10m下がれば1気圧変化するなどの、違う面での難しさがある。日本は世界で6番目の海洋水域を有している国であり、その海底には限りない資源が潜んでいる可能性もある。現在、日本だけでなく世界全体が海洋に注目しつつあり、その中で日本が中心的な位置づけとなることを目指した機体開発を進めてもらい、2号機、3号機、そして応用機と、実用展開が進み、世界に打って出ていけるようになることを期待している」(JAMSTEC 堀田平 理事)とのことで、JAMSTECとしても日本の海洋探査技術の底上げにつながる今回のプロジェクトを全面的に支援していくとしている。

また、大学として協力する芝浦工大の柘植綾夫学長と東京海洋大の松山優治学長はそれぞれ「現状の日本を見て、変革の精神を大切にしていくことがいかに重要かを噛みしめている。沈みゆく日本という言葉を使っても過言ではない状況。大学から見ると、今回の取り組みは社会に貢献する立派なテーマ。ひいては育成した人材を通して、沈みゆく日本を浮かぶ行く日本へと逆に転換することを目指したい」(柘植学長)、「水の中では電磁波が使えず超音波だけなので、宇宙のように面的に捉えられない。そのため、スポット的にしか観測できていない。今回の取り組みがきっかけになり、より海洋の理解が進めむことは良いことだし、できれば海外でも使ってもらえるようなものに育ってくれればと思って居る。新しいものを作る場に参加できるのは喜ばしいことで、より広く、新しい価値を生み出す協力をしていきたい」(松山学長)とコメントしている。

今後のスケジュールとしては2012年3月にJAMSTECが保有する1万5000mまで試験可能な耐圧試験機にて、使用する機器や部品の耐圧テストを実施、その後、3月末もしくは4月頭には本体の構築、組み込みの完了を目指す。その後はJAMSTECの海洋調査船を借りて、日本海溝の8000m級の深度に挑戦したいとしているが、そのスケジュールはまだ確定していない状況だという。

江戸っ子1号の運用イメージ。船上から重りを付けた機体を沈め、海底に到達後、カメラによる撮影やセンサによる調査、泥の採取などを行い、船からの重りの切り離し命令を受けることで、重りを切り離し浮力を得て海面まで上昇、GPSで位置を確認し、それを回収するという流れとなる

日本海溝は東日本の太平洋側に位置し、最深部は8000mを超す深さを有している

今回の深海調査では、光学カメラによる海底の撮影のほか、海底の泥の採取も試みられる予定。スポイト状の採取器を用意し、海底の泥を採取、未知のバクテリアなどの調査も行うという。

なお、最終目標はマリアナ海溝の1万1000m級の深海底への挑戦としているが、江戸っ子1号のガラス球は市販品でカタログスペックとしては9000mまでしか対応していないということで、新たな材質などの模索なども進めていく計画としている。