名大、サッカーの司令塔が試合中に最もパスに絡んでいることを科学的に証明

名古屋大学(名大)は、サッカーには「ハブ」となる限られたキーマンの選手、「司令塔」が実際に存在するということを科学的に証明したことを発表した。名大総合保健体育科学センターの山本裕二教授と、日本学術振興会特別研究員の横山慶子博士らによる研究で、成果は米科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

サッカーの試合では、試合をコントロールしている中心的な選手を指す言葉として、「司令塔」という言葉が使われるのは、サッカーファンでなくても耳にしたことがある人は多いことだろう。なお「ネットワーク理論」では、サッカーのチームのような比較的小規模な集団から大規模な集団まで、ネットワークの中でより多くのノード(頂点、要素)と結びついている中心的な存在を「ハブ」と呼んでいる。

こうしたリンク構造は、インターネットでもお馴染みで、非常に多くのほかのWebページへのリンクを持っているページが数少なく存在し、逆にリンクの少ないページが数多くあるという具合だ。そのほか、社会現象から遺伝しネットワークまでさまざまなレベルで報告されている構造である。

しかし、このハブは意図的な攻撃に弱く、ハブが攻撃されるとネットワーク全体が機能しなくなるという弱点を持つ。例えば、飛行機の国際線の乗り継ぎとして利用されるハブ空港が閉鎖されるような状況を想定すれば、想像がつくはずである。

ただし、ネットワーク理論を用いた研究では、多数の要素からなる集団を対象としており、少数でかつ要素数が限られた集団での検討はされてこなかった。そこで、研究グループは招集集団としてサッカーに着目し、司令塔が本当に存在するのか、もし存在するならば相手からの攻撃を避けながら相手を攻めるという相反する条件を以下に解決しているのか調べたというわけだ。

研究グループでは、2006年のワールドカップ決勝のイタリア対フランス戦(90分間で1対1)、同じく2006年のキリンカップの日本対ガーナ戦(90分間で0対1)において、延長を含まない前後半90分間を対象とし、両チーム22名の選手間をどのようにボールが動いたかを5分間ごとに観察した(画像1)。パスの出し手と受け手の選手を調べ、ネットワーク理論からパス回しについての分析を行ったというわけである。

そして、各選手がパスを受けた数、パスを出した数を求めた結果(画像2)、パスを数多く出す司令塔(ハブ)となる選手は実際に存在することが確認された。逆にほとんどボールに触れない選手も数多くいて、少集団でも多集団と同様の規則性、すなわち「ベキ(乗)則」(別名「パレート分布」)が成り立つことが判明したのである。

画像1。イタリア対フランスの前半20分までの5分ごとのボールの動きを選手を基準としてネットワークで表したもの。Gはキーパー、Dはディフェンス、Mはミッドフィルダー、Fはフォワードの略称で、4-4-2のフォーメーションとして表している

画像2。パスネットワークを両対数グラフで表したもの。横軸が5分ごとのパスの回数で、縦軸がそのパス回数を行った人の割合。赤い丸がパスを出した回数で、青い四角がパスを受けた回数を示す。実践は明らかにベキ則が成り立つもので、点線はベキ則が成り立つと考えてよいもの。左上の2つがイタリアの前半と後半、その右の2つがフランス、下の左2つが日本、その右2つがガーナ

ベキ則とは、複雑系科学とも密接に関連し、一見すると複雑に見えるさまざまな現象の中に潜む規則性として、自己相似性やフラクタルとして理解されている法則だ。例えば、地震の大きさとその頻度の関係などである。画像3の左のグラフは実際にはy=x2のグラフだが、横軸が地震の大きさ、縦軸が地震の頻度とすれば、大きな地震の起きる頻度は非常に少ないが、左のグラフのようなラインを描くグラフになるはずだ。その両対数を取ったのが画像3の右のグラフで、これがベキ則と呼ばれる。一方、クラスの生徒の身長とかテストの点数とか、平均が取れて、その平均から離れれば離れるほど(身長や点数が極端に高い低い)その数が少なくなっていくようなものは、正規分布(ガウス分布)と呼ぶ。

画像3。5分ごとの各選手のパスにかかわった回数を表したもの。色が白い方が多くパスを受けたり出したりしていて、濃い方がパスを行う回数が少ない

続いて、ハブとなる選手の時間変化を見たところ(画像4)、試合時間経過とともに変化していること(図中白っぽく見える部分が切り替わる)が確認された。これは、ハブとなる選手が固定すると、その選手が攻撃されてチームとして機能しなくなるため、別の選手がハブと成り、相手からの攻撃を避けると同時にチームが機能するように、ハブとなる選手が切り替わっていると予想される結果だ。つまり、パスのネットワークの構造を柔軟に、かつ動的に変更していると考えられ、多集団のネットワークとは明らかに異なる点として存在していることが明らかになったのである。

要は、司令塔役が務まる選手が1人しかいないチームよりも、複数いるチームの方が強いという(100%絶対というわけではないが)、サッカー経験者やファンなら経験的に当たり前のように感じていることが科学的に証明されたというわけだ。

さらに、5分間ごとのパスネットワーク(画像1)の中で、三者の連携を示す三角形の数と、相手コート奥深くまでボールを進め、シュートチャンスを作った攻撃機会との関係を見た結果(画像5)、三者間連携が多いほど、攻撃機会も多いことが判明した。これは、司令塔を中心に三者間連携を高めることがチームの成功に有効であることを示していると考えられる結果である。要は、ボールを持った選手をサポートする選手が常にいることが攻撃には有効ということで、サッカー経験者やファンなら経験的に理解しているであろうことだが、これも科学的に改めて証明されたというわけだ。

画像4。それぞれ上段が5分間ごとでの三角形の数。下段が攻撃機会の差を表したもの。棒グラフがプラスの時はイタリア、日本の攻撃機会の方が多く、マイナスの時にはフランスとガーナの攻撃機会が多いことを示している。濃い矢印はシュートまで行ったもので薄い矢印はシュートには至らなかった攻撃機会

画像5。左がy=x2を図にしたもので、右がその両対数をとったもの

研究グループでは、今回の成果はスポーツ以外の少集団にも当てはめることができ、例えば2つの競合する中小企業の経営戦略にも役立てることが期待されるとしている。

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