名古屋大学(名大)は12月14日、細胞と細胞外をつなぐ新しい仕組みとして、タンパク質の糖修飾の1種「N-アセチルグルコサミン修飾」を発見したと発表した。発見は名大大学院医学系研究科の古川鋼一教授、岡島徹也准教授らを中心とする研究グループによるもので、英科学雑誌「Nature Communications」電子版に英国時間12月13日に掲載された。

N-アセチルグルコサミンは、一般には細胞内の糖修飾として基本的な細胞機能に重要な役割を果たしている。N-アセチルグルコサミンは、グルコース代謝の副経路である「ヘキソサミン代謝経路」を介して生合成される「UDP-GlcNAc」を利用して、細胞質や核に存在する酵素「OGT」により触媒されるのだ。

さらに、ヘキソサミン代謝経路の異常な活性化は、糖尿病におけるインスリン抵抗性の原因となることもこれまでの研究により知られていた。そのほか、N-アセチルグルコサミンに異常は、神経変性疾患に関連することも判明している。

このようにN-アセチルグルコサミン修飾は、細胞内に特異的なものであると広く認識されていたために、今回の成果が発表される以前は、細胞外におけるN-アセチルグルコサミン修飾の役割はまったくの不明という状態だったのである。しかし、今回、細胞外の環境(細胞外マトリックス)にもN-アセチルグルコサミンが存在し、機能することが世界で初めて見出され、研究が大きく進展したというわけだ。

なおヘキソサミン経路の活性化は、細胞内タンパク質のN-アセチルグルコサミン修飾量を増加させることが知られていたが、細胞外のN-アセチルグルコサミン修飾量も同様に、ヘキソサミン経路により調整されることも明らかにしている。

一方、細胞内のN-アセチルグルコサミン修飾には、酵素OGTが働くわけだが、細胞外のN-アセチルグルコサミン修飾には、分泌経路に存在するまったく新しいタイプの「N-アセチルグルコサミン転移酵素」(EOGT)が働くことが確認された。

ショウジョウバエをモデル生物に用いて、EOGTの機能を阻害したところ、「Dumpy」と呼ばれる巨大な膜貫通型細胞外マトリックス分子のN-アセチルグルコサミン修飾が消失し、細胞と細胞外マトリックスの接着に異常が発見されたのである。このことより、N-アセチルグルコサミンは細胞と細胞外をつなぐ新しい分子であることが示されたというわけだ。

EOGTは、線虫からヒトまで広く保存されており、哺乳動物のEOGTも同様な酵素活性を示す。従って、細胞外のN-アセチルグルコサミン修飾は、細胞外環境の制御に関わる基本的なメカニズムとして、多くの生物に進化的に保存されていることも判明した。